蜷局ーとぐろー



「事実じゃろうて。ソハヤもこの手に収めたんじゃ。もはや、去るお主と相対する用も、表に出張る必要も無くなったんじゃけ片割れよ。いずれ…。嫌、多くは語らん。語って聞かせる程甘くはないんじゃけ。」


 そう言うと、言って捨てると、攝累きょうら老傘咒ろうせんじゅと呼ばれた。否、ののしられた累火は後ろに広がる闇屋やみやに沈み、姿を消した。


 夜更けと夜明けの合間。暗闇が薄闇に切り替わる頃、霧雨と朝露が渦切の門扉もんぴ項垂れうなだれ、座る攝累の身体を少しずつ濡らす。


 茫然自失ぼうぜんじしつ・心神喪失・一挙両失いっきょりょうしつ


 「も、もう会えないか…。黒渦の過去を見た後、一緒に渦切を捨てるつもりだったのにな…。置いてきてしまった。捨ててきてしまった。」

 

 握られたソハヤの残骸。それを見つめる攝累の目は焦燥しょうそう悲壮ひそうで一層暗さを増していた。


「愛おしい弟よ…たった一人の弟よ。お前が居ないと思うだけで、独りが続くと思うだけで、時間の過ぎるのが…、遅いな…。なぁ、せつ。」

 

 "戻ろう"そう口にして重い腰を上げて、鈍い足音を鳴らす。

 この時、この瞬間をもって、奥底で膨らみ願うべくして叶った渦切からの離縁。


 




 攝累は家を捨てた。






 ◯

 だが、血は双子を離しはしない。攝累の身体に蜷局"渦"巻くとぐろうずまく、血族の赤い糸は"切"きりいととなって攝累になお、酷を強いるのだ。

 必要なのは個人ではない。一族の為、存分に利用できる双子と言うその立場と持ちうる特異な能力。



  【異様にして異常、異形にして異能】 累攝と攝累 

 この言葉の本当の意味合いを顕現させるために…。

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