堕楽ーだらくー

 煽るように切り返すのは攝累。

 「今の今まで、影に潜んで、黒渦が写す過去の中にのみ出てきたあんたが最も嫌う、忌み双子の前に現れるとはどういう了見りょうけんだ?御意見番様よ。」


 「カッカッカッカ。了見の狭い主では理解に苦しむじゃろうてやめておけ。片割れよ。頭目の血と情で生き繋げられた命なんじゃけぇの。」


 「勘違いをするんじゃないぜ。御意見番。否、御意見婆ごいけんばばぁ。お前は全盛だった親父殿の力におののいて、あたし等を生かす選択しか選べなかったんだろう?」


 ピクリと片眉を上げ、黒目のみの双眸そうぼうを少し歪める。月が照らしていてもよいも宵。表情が見えるわけでもないが攝累はニヤリと口角と顎を上げてあおるように続ける。

 

 「おいおい、図星のようだぜ。強い、お強いお姉ちゃんに隠し事は出来ねぇぜ。」


 くくっている。たかを括っている攝累の前から老婆が消えた。読んで字の如く。闇に溶けるように消えた。

 次に攝累が聞いたのは、背後から耳元にささやくしゃがれた嫌な老婆の声だった。


 「実力差もわかっていないようじゃけ。片割れよ。それに…。」

 背筋を切っ先でなぞられたような悪寒が走り、冷や汗が出る攝累。その顔にはさっきの余裕な表情は消えていた。


 「前にも言うたが、ソハヤは返してもらうけぇの…。」


 

 ーちんしゃいー。

 

 不気味な囁きが夜に響いたその時。

 

 羽織っていた騒速渦羽織が攝累の肩から、ひとりでに滑り落ちた。

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