失速ーしっそくー


 

 一瞬の内に落ちたわけじゃない。

 ゆっくりと、ゆったりと地に落ちた。

 

 対応は出来た。だが、反応が出来なかった。


「そもそもお前の物じゃねぇんだぜ!返すったってなぁ婆!」


 振り向き、拾い上げようとするも地に落ちているであろうソハヤを攝累は拾うことが出来なかった。

 それもそうだろう。目にも捉えることができなかったのだから。

 もしやと悪い想像が頭を巡り御意見番の方に目を向けると握られていた。そう、ソハヤがその手に。

 


「持ちうる、持ち味だった"速さ"はもう無くなったんじゃけ。無理はするなよ。嫌、無理もできないんじゃけ。片割れよ。今の持たざるお主にワシは身に余る。」


 相手に不足なしというが、今は相手からすると不満ありと言った所だろう状況だった。



 

 だからこそ油断した。御意見番は。言えば油断大敵。

 だからこそ不覚を取れた。攝累は。動きは大胆不敵。



 

 構えもなく近づいた為、予備動作もない接近は虚を突かれた御意見番には相当に早く見えただろう。だが、実のところ、冷静に見てみればいつもより、攝累の動きには鋭さどころか、迷いさえもあった。


 だが、過去に殴られ、物思いにふけっていた攝累にはそれで事足りていた。

 技名もない動きで、技を出せる体制でも無い状況で取り返すだけを目的とし腕を振って掌を握る。


 

 

 捉えた。掴まえた。


 

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