累事ーかさねごとー

 渦切の思惑を知り、渦切を去る前にこのあたし。渦切攝累きょうらは自分が知る自分の過去を今語ろうと思う次第だぜ。どちらかというと振り返るといった意味合いのほうが強いけど。


 まどろっこしいのは好きじゃないから勿体ぶらず、あっさり言ってしまうと。分家を中心に噂されている惨劇ってのは、母様を殺したのが攝でその攝の一人の人間としての尊厳を、生き様を、生き方を亡きものにしたのがあたしだからだ。


 その日、寝室からほど近い渦切の大広間。


 深夜ぐっすりと寝ていたあたしは目を覚ますことになった。その大広間から大きい物音が聞こえてきたからだ。隣に寝ているはずの母様は其処にはいなかった。そりゃ嫌な予感が頭によぎったさ。急いで大広間に向かって見た光景は夜月に照らされて相対した赤く光った目で母様を睨みつけていた攝の姿だった。


 明らかに乗っ取られているだろう雰囲気の攝が羽織っていたのはドス黒い一領の羽織だった。あれが黒渦だったのかまでは分かりかねるけどな。


 もうそりゃ恐ろしかったぜ。ツキアカリが照らしているとはいえ真宵まよい。薄闇どころか暗闇の中で2つの赫眼かくがんが仰々しくと母様とあたしを交互に睨んでいるんだからな。


 おいおい、そんな責めるような面持ちで聞いちゃって、いや読んじゃってくれているお前さんの気持ちもわかるぜ。あぁわかる。かさねて言うけどな。親父殿を呼びにいけばいいだろってな。呼びに行ければよかったんだけれどな。


 でもな、あの歳でも、あの頃であってもあたしは天才だった。武に関してはな。だけど1つ。1つだけ付け加えるとしたら天才"児"だったんだ。そう、まだ年端もいかない子供だったんだぜ。呼びに行ける勇気もなければ、抱く怖さゆえに母様の隣に行きたいぐらいだったんだぜ。


 その判断の遅さが、惨劇の忌双子の由縁を、由来を決定的にしちまったんだぜ。



 かさねて、言うけどな…。




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