聖ーひじりー

 僕の父、渦切丹波うずぎりたんばからの呼び出しは覚悟をしていたものとは裏腹に呆気なくも味気ない程にあっさりとした要求いや、どちらかというと依頼だった。


 今日、今回、今今いまいま請け負った依頼は、夢々忘れぬようとの言付ことつかりと共に僕は各羽織の叡智えいちの様な知識・達識たっしきが書かれた書物。


 この物語を読んでいるであろう貴方いや貴方方あなたがたの生きとし生ける、現在である現代の言葉で表すなら、取扱書と呼ばれる物が保存されている書庫の鍵を預けられ、父が手掛けた地動渦羽織の扱い方が載った書物を取りに行く最中だ。


 なぜ?なんで?との疑問が頭をかすめ、多分何を言っているのか検討も憶測もつかないのでは話が進まない。なので説明をしておくと頼まれたのは地動渦羽織を買いそして、使っている大工の棟梁とうりょうさんの所へ行って、羽織の調子と様子を見て来てくれとのお達しが出たからだ。


 大鋸御おがみ家、地動渦羽織の所有者であるその一家、一派の頭領にして統領として棟梁の大鋸御 聖(ひじり)。


 物凄く仰々しいい字の羅列でまぁ堅苦しそうな名前なのだが、それに相反して温和で温厚な人だ。かつて父に連れられ一度お会いしたことがあったのだけれど、上に立つ人って多分こうゆう人なのだろう。父もこうだったら……。


 そうぼやきながら、書庫から蔵書を引き抜いた。


 その時、後ろから僕を呼ぶ声がした。あ、聞かれたかもしれない……。

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