老婆心ーろうばしんー

 宵も更けて来たのにも関わらず、屋敷の上へのぼり、物思いに耽っておる忌み双子の片割れがおるようじゃけ。


 思い至る程の、物の語りも知らずしての…。カッカッカ。


 渦切の下、蓮芭牢れんばろうにでも入って黒渦に何をみたのじゃろうの。哀れあわれじゃ、哀れじゃ。

 確かにあれは渦切のしてきた、嫌。わしがしてきた事が、事柄を見ることが出来る羽織じゃがの。それは全て、すべからく渦切の繁栄と安寧のためじゃけ…。

 

 付喪の神と一緒に作った、婆様達の叡智えいちを終わらせぬ為じゃ。

 初代にして先代の婆様達は幼いワシによぉ言ってくれた。教えてくれた。


 ーー『ねぇ、累比るび。この渦切が貰い受けた付喪の力と知恵。世に出すにはあまりにも強すぎる。長く現し世うつしよに干渉すればいずれ大乱をもたらし、天下泰平とは真逆に誘う事すらも容易でしょう。繁栄は続く。ですが徐々に安寧は失っていく』ーー。


 ~~「だからな、累比。次に産まれてくるあたしらの様な双子をもって、この渦切の叡智創生えいちそうせいを持ってしての繁栄と、聡明叡智そうめいえいちの上に築く安寧を終えることにしようと思うぜ」~~。


 ー頼みましたよー。~任せたぜ~。


 

 婆様達は、亡くなる前に。ワシにそう言った。守らねばならぬ。保たねばならぬ。


 嫌じゃ。嫌じゃ。


 婆様達が一代で築いた頃。付喪共にどれほどの犠牲を払ったか。どれほどの身を削ったか。

 それを婆様達は…。分家は愚か、本家、そして宗家の者にすら多くを語ることをしなかったんじゃけ。


 ワシは、知ってしまったんじゃけ。ワシ自身が作った羽織のおかげで…。


 嫌、創り出してしまった羽織のせいでじゃ…。


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