嚇月ーかくづきー

 私は死んだ。あの毛先が朱に染まる黒髪の少女に……。


 そう思ってくれているのなら目論見通りだな。

 あの贔屓筋ひいきすじから買い落としておいて良かった。

 高い羽織だったが、命拾いと珍奇ちんきな双子の観察の機会をくれたのだから悪くない買い物だ。

 まぁ後でまた世話になるときにでも礼は言おうあの化け物に。


 にしても今は手前に写る手練てだれの双子だ。

 長い黒髪、朱殷に染まる毛先。そして暁のように光る眼、

加えて武に長けたあの動き。


 まさに妙技みょうぎにして絶技と言った所だな。

 まぁ穿たれたアレに何を聞いても答えは聞けないだろうさ。

 あれは俺だった物で俺に成っていた物だからな。


 にしてもあの消えるような動き。

聞いていた渦切 せつの"ソハヤ渦羽織うずばおり"の効果か。

 あの姉・攝累が羽織るとまさに天賦の才…

いや、厭忌えんきの災と言った方がお似合いだ。


 あれほどの厄災じみた天才は相手にせず、我関せずが良しだ。

 てな事を言ってる間に姿がないな。砂埃と人形だけか…。


攝累きょうらか……。奴は普通に化け物だな。」


 影に潜む夜霧の背後を赤い月のような2つの目が浮び睨む……。




「いや、私は普通の化け物だ……。」


 

 

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