雌雄ーしゆうー

 馬酔木あせび窮地きゅうちはまだ続く。

 貫かれた両手に空いた風穴からは朱殷しゅあんの液が飛び、襲撃者と馬酔木の間に広がり落ちた。


 痛みに打ちひしがれ呼吸が上がる中でも馬酔木の思考は止まらない。止める訳にはいかない。

 考える時間と距離を、相手方はくれるはずもなく通常の倍はあろう釘抜きを、なお振り上げ追随のような追撃をしようと走り迫る。



 二股の爪が頭を捉えようと襲いかかる瞬刻しゅんこく

 馬酔木の荒い呼吸が収まり、息を荒げ襲いくる襲撃者のまなこから馬酔木が消えた。

 打ち下ろされた釘抜きの2つの針が貫いたのは御立みたちの床板だった。



 その上には空を舞う蝶のように、羽織を広げ頭上で身をひるがえす馬酔木の姿があった。


 ひねる体とは相反しその目は襲撃者の顔をはっきりと捉えている。




 顔の位置、瞳孔の開き、呼吸の仕方。



 その表情をうかがう馬酔木の顔には先程までの苦悶くもんと苦痛の色は消えていた。代わりに浮かぶのは確信の顔。



 まるで舞踊を舞うように羽織をなびかせ襲った者の背中と自身の背中を向け合うように背後に降り立った。

 冷徹に、そして冷静に背後に顔を向けた馬酔木の眼に写ったのは。



 息を荒げ、むせび崩れ落ちる襲った者の姿だった。

 その落ち姿を見て馬酔木が言葉を投げる。




「雌雄の決着です。今回はどちらとも女性同士ですがね…。女将さん。」

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