双頭の蛇ーそうとうのへびー

 今回は、今作はこの私。名前なんて大した意味もないさ。


 つづつむぐだけしか脳がない私にはね。


 といった次第で、世界で言う地の文とやらだけでこの世界を語っていこうと思う。


 ◯

 振り下ろされたのは釘抜き。先端が細くとがった二股になっている大工道具の1つ。

 その2つの穿ち針うがちばりはまるで獲物に向かい飛び、襲いくる双頭の蛇のような悪意混じりの圧壊あっかいを迫るように馬酔木あせびの頭に振り下ろされた。

 

 ”ズサリ”。


 聞くに堪えない、耐えられない鈍くも恐ろしい鉄蛇てつへびの血をすすり、肉をむ音が広い御館みたちに広がった。



 確かに、さだかにその鉄蛇は肉を噛んだ。だがその牙には頭蓋や脳髄は付かなかった。


 そう、馬酔木は避けていた。


 馬酔木も分家とはいえ、渦切一派の羽織を扱いまとう歴戦職人の1人。

 まして今回はせつがいる。


 周りの状況判断も人一倍見て、聞いて、気にしている。そうなるだろうことも念頭ねんとうに置いていなかったわけではなかった。そうお目付け役を頼まれたときの丹波たんばからの一言。


 よくよく、夢々忘れぬようにと。

 

 思考を巡らせたのもつかの間、頭のかわりに貫かれたのは身をひねり頭の前で重ねた両のてのひらだった。



 頭蓋よりはまだましだ。



 そんな言葉は受けたことのない他者、愚者だから言えることだ。激しい痛みと熱さが両手から腕を伝い心臓に響く。


 なんにせよ状況は最悪だ。なんたって、羽織職人の命であり技術を羽織に落とし込む際、なくてはならない部分。




 そう、馬酔木は両手を失った。

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