毒花ーどくばなー

 「い、息が…。す、吸えない…。」

 必死に空気を体に取り込もうとする喉と音が御館みたちに広がる。前のめりになり、手から離した大釘抜きおおくぎぬきと一緒に意識を失い倒れたのは、大鋸御屋(おがみや)の女将さんだった。

 それを確認して馬酔木あせびは穴の空いた両手を簡易に、安易に治療し始めていた。

 

 ◯

 快勝。

 と言う言葉が似合うほど、似合うだけの余裕のある決着、そして終決とはいきませんでしたね。

 この通り深手といえば深手を負ったのですから。でも今回は相手との技量の差と、なにより私の羽織、馬酔木あせび渦羽織との相性が良いとまでは行かないものの最悪ではなかったのが幸いですね。

 両手が使えなくなったと知って油断したのですから相手、そう女将さんは。


 私の羽織、馬酔木は神経系の毒花。

 羽織の編み繊維の中に毒の花粉を織り交ぜ、独特な舞の型に応じて花粉を放ち、吸った対象の人穴じんけつ全体から入り込む。


 取り込んだ部位によって効果は変わりますが…。


 目なら盲目、鼻や口からなら肺を痙攣させ窒息をもって動きを止める。今回は、不遇・不足ながら両の掌を使えなくなった為、”小袋”は使わずに済みましたが。

 さて、気を失っているうちに拘束させていただきましょう。


「死んでおくれ。渦切。あなた達のお陰で私は見事な程に、鮮明な地獄を見た。」


 あの発言の意図と理由も気になるところですので。

 花粉で掌の痛覚は麻痺させましたし、その場しのぎではありますが傷も塞ぎました。

 


 攝様をお呼びして来なくては。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る