鋒刃ーほうじんー

 なんにせよじゃ。



 宵の更けだとしても外。嫌、表に出過ぎたんじゃ、そろそろ引かねば。この片割れ。昔から、幼子の頃から身体の使い方に加えて相対戦闘あいたいせんとうに対する勘がやたら鋭い。知られることは無いじゃろうが、"位置"も悪くないようじゃけ。


 「なんじゃ、なんじゃ。偉く朦朧もうろうとしておるようじゃけぇの。嫌、昏倒寸前こんとうすんぜんといったその状況でよく、かすめ取ったもんじゃけ。じゃがな、手を、自分の、自身の掌を開いて見てみることじゃけ。羽織にしては、やたら。」

 



 軽くはないかの?


 

 そう、しゃがれた嫌な声が混沌を彷徨うさまよう攝累の耳に入り、握った拳に眼をやった。

 最悪も最悪。

 悲惨も悲惨。


 

 握った感覚は重かった。

 筈だった。

 

 だが、再度言おう、何度だって言おう。絶望に打ちひしがれ、過去に殴られたうえ、力が抜けて意識のみで立っている攝累が持てる程度の重さ。

 そう、そこにあったのは、その手に握られていたのは裂けて割れた。認識として認知できた弟であるはずの魂が乗ったソハヤの、背縫いせぬいから内揚げうちあげさかいに下半分。後身頃うしろみごろを中心として半分から破れ、上半分と下半分へと半壊された羽織の一端いったんだったからだ。


 一匹の野獣の、猛獣の遠吠えのような痛々しい叫び声が周囲の空気を裂いて響く。

 


 「き、貴様。ばばぁ!!!」


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