第39話 協力要請

「「ごめんなさい」」



ネビ君と一緒に腰を曲げ、サングラスを差し出すと彼女は驚いたように口元に手を当てる。



「お前らなあ、そこは申し訳ございませんでしただろう」


「お気になさらず」



彼女はふたりからサングラスを受け取ると、眉をハの字にした。



「それより、頭を上げてください。お二人に悪意がなかったことはわかっていましたので、こちらとしてもヴィルゴに謝罪させたいのですが」



辺りを見回し、店内を覗いても彼の姿は見当たらない。



「逃げられました。彼の監督責任である私から彼の分も謝罪させてください。申し訳ありませんでした」



頭を深く下げる彼女に「頭を上げてください」と慌てふためく聡介。それを見計らって、サキはネビュラの袖を引き、その場を静かに去る。

 こちらに気づかれていないと思っている二人の背中を見送る聡介に「止めなくていいのですか」とセイリーンは不思議そうに彼を見上げた。



「…これ以上は逃げないでしょう。世話になったこの星の人間に別れの挨拶をしてくるよう言ったのは私ですし、明後日にはもうこの星を出ることは伝えてありますので」



ため息交じりにそう言うと、聡介は自分の左肩に右手をやって肩の凝りを解した。



「みなさんがまたお会いできるようわたくしとしてもSCTの存続と利用者増加にもっともっと力を入れます」


「捜索も無事終わりましたしこうしてここに立っているのもあれなので、パフェを食べましょうか」


「はい、是非。疲労にあの甘さは最高のご褒美ですよね」


「ええ。今日は私も食べます」



☆ ☆ ☆



 ファミレスに二人が入ったのを見計らい、ファミレスを囲む生垣から現れたヴィルゴ。



「いやあ、危なくみつかるところでしたよぉ」



呑気な声が聞こえ、ネビュラはサキを振り返りにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 関マネから離れた時点で、サキの意図は察している。何を企んでいるのかも、おおよその見当はついた。



「なんだか君にあったのがもう昔って感じがするよ。久々だね、ヴィルゴ君」


「ひッ…ってお二人でしたか。そのご様子だと一度聡介さんにきつくお灸を据えられましたね?」


「まあな」



ファミレスの店内から自分たちの姿が見えないように、ヴィルゴにも自分たちに倣って姿勢を低くするように促す。



「ねえ、ヴィルゴ君に聞きたいことあるんだけど」


「なんなりと」


「SCTのもう一つの仕事って何をするの?」


「え」


「これまでの経緯を説明しくれた時そこだけ伏せててさ、気になっちゃって」



一応SCTの職員としての自覚があるらしい。秘密事項であるそれを二人に尋ねられて、あからさまに動揺するヴィルゴだったがすぐに交換条件を提示してきた。



「次回のライブ、関係者席にご招待いただけますか?」


「いいよ。というかもう十分関係者でしょ」



今回自分たちが起こした騒動には彼もかなり関与している。迷惑をかけたSCTの人だから、という理由ならば関マネだって一度くらい関係者席に彼を呼んでも目を瞑ってくれるはずだ。



「いいでしょう」



ヴィルゴはペラペラとSCTのもう一つの仕事内容について話し出した。二人はその秘密を知って、同じ名案を思い付くのであった。



「そこでだ、ヴィルゴ」


「俺たちに協力してくれない?」



二人は早速その名案に、彼へ協力を持ち掛けた。

 沈黙したのはほんの数瞬。ヴィルゴは気味の悪い笑い声を漏らしながら目を細めた。



「それはそれは、楽しそうなご名案ですねぇ。是非協力させてください」



悪巧みをする子どもの様にファミレスの生垣の前にしゃがみ込んでプランを練る三人であった。




     [  聡介 SIDE  ]


「っ…」



目の前の光景に、声を失った。

 眼前では変装も何もしていない、見る人が見ればSaturNだとわかってしまうサキとネビュラ。そしてサキを確保した時に見かけた妙に色気のある青年が歌っている。

 二人の手に楽器はなく、演奏を担当しているのはどうやら後ろにいる青年達らしい。よく目を凝らして見てみれば、彼らはサキの言っていたあのバンドの子たちだった。中には名刺を渡した青年もいて、彼は活き活きとした表情でドラムを叩いている。

 SaturNの歌を純粋に楽しみたいと思う自分がいる反面、それを理性とこれまで培ってきたマネージャー魂が赦さない。

 この場をどう収めたらいいのだろうか。収めたところでこの事を知った宇宙メディア各局が黙ってないだろう。「の星はSaturNを使い地球人を配下に置き、軍事力として他惑星に攻め入る腹積もりだ」などと各星の要人が疑心暗鬼になれば、巷で話題になっている宇宙戦争の火種が自星に向くレベルの取り返しのつかない問題と言える。その場合、責任を取らされるのは自分だけで済むのだろうか。

(あいつらは本当に何を考えているんだ?。下手をすればもう二度と活動出来なくなるかもしれないのに…)



「あら、聡介君じゃない。その顔はやっぱり知らされてなかったのね」



見知った顔に声をかけられ、半ば縋るようにこの状況について尋ねる。



「これは一体何が起きているんでしょうか」



「うーん」と人さし指を唇に押し当てる幸人の答えを急かすように、次の言葉をもどかしそうに待つ聡介。



「二人が夢の実現に大きく近づこうとしている歴史的瞬間?」



冗談っぽくそう言って笑う幸人は「実はね」と、事のあらましを順を追って聡介に説明した。



☆ ☆ ☆



 発端はサキとネビュラがヴィルゴとある計画を遂行するためのプランを練った一昨日まで遡る。



「ってことだからよろしく」


「ええ。こちらのことは私に任せてくださぁい」


「結構ギリギリなお願いしてるけど、本当に大丈夫か?」


「ええ、関係者席がかかってますから」



本気を出すところが違うと思う、とネビュラに突っ込まれヘラヘラと笑っている。

 二人から仰せつかった自分の役目を果たしに、車掌のような白い手袋をはめた手をひらひらと振りながらその場を弾む足取りで去るヴィルゴ。

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