HAPPY GALAXY

第2話 地球に行くという提案

    [  SaturN SIDE  ]


「ねえ、ネビ君」



 とある惑星の大スター。

 ちょっと変わった二人組シンガーソングユニット、SaturNのサキとネビュラは、曲、歌、彼らの人柄全てを含め大人気を博していた。

 そんな彼らの控室ではサキに声をかけられたネビュラが、CDケースにサインを書く手を止めて顔を上げる。



「ん?」


「地球行かない?」


「いいじゃん、行こうぜ」




     [  聡介 SIDE  ]


 周りの視線が突き刺さるようで痛い。

 元々他惑星への差別が穏やかな星だけど、他惑星の存在を頑なに認めようとしない地球人への差別はそこそこある。

 母方の祖母が純地球人で母がハーフ。三人姉弟のうち一番地球人の血が濃いと思われる俺は小さい頃から苦労してきた。

 就職する時に地球人の血は入っていないと嘘をついてまで入社したプロダクションで夢だったマネージャーになって、最初についたのがSaturNの二人だった。

 五年経って今一番大切という時期に、地球人の血が混ざったクウォーターだということが明るみになってしまった。SaturNにつきたかった他のマネージャーの参謀によって。

 嘘をついていたのは俺だから、反撃の余地がない。

 社長にやんわりとクビを宣告され、あっと言う間に退職日当日。SaturNの二人に謝罪する前に社長へ挨拶に行くと、眼前にメモ書きを突きつけられた。



「あの、これは」


「全然怒ってないんだけどね、うん。読んでくれるかな」




『 ファンのみんなへ

 叶えたい夢がどうやっても叶わないかもしれないって思ったら急に、みんなに伝えたい気持ちも音も…何も思い浮かばなくなっちゃった。俺の伝えたいこととかこのままだと全然伝えられないって思ったから、ちょっと地球に行ってくるよ。いつ戻るかはわからないけど、戻った時には必ず今の俺よりも輝いてハッピーな俺になって、みんなもハッピーにするから、楽しみに待ってて! SAKI


 じいさんになってたらごめんな

Nebura 』




 特徴的な丸い字、思ったまま書きなぐった感じ。間違いなくサキ本人が書いているし、身もふたもない短文はネビュラに決まっている。



「ご丁寧にこの手紙を写した写真がSaturNの公式ホームページにも上がってたんだよね、うん。本当に勝手で困った子たちだ、うん」


「申し訳ありません」



いつもより深く頭を下げる。こればっかりは退職が決まった俺に言われてもどうすることも出来ないだろうに、と思っていたからか社長こんなやつにいつもより深く頭を下げられたのかもしれない。

 しかし、謎の沈黙。嫌な予感しかしないのだが。



「なにぼーっとつっ立ってるの。連れ戻して来なさい」


「ですが私は」


「わかった、それじゃあこうしよう。君が二人を連れ戻せたら退職は取り消してあげよう、うん。それでどう?」



(あのあいつらが簡単に捕まるわけないだろ。面倒事ばっか押し付けやがってこの野郎)

心の中で悪態をつきながら睨みつけていると「歯向かうような目だね」と、口元は笑っているのに全然笑っていない目で苛立つ社長。



「いえ?。退職にならない可能性を提示して頂けて、やる気に満ちていたところです」



適当な嘘を吐きながら微笑を顔面に張り付け捜索について考える。ファンに嘘はつかないやつらだから地球に行ったのは確かだろうけど…。



「そう、よかった。あ、でも君地球が嫌いなんだったよね、うんうん。地球人の血を引いてることで苦労したことが沢山あるんだろうね、なら無理かな?」



随分と煽ってくれるな。嫌なのは事実だけど、それでマネージャーの職を取り返せるなら安いもんだ。



「気を遣っていただいてありがとうございます。ですが大丈夫です、必ずや二人を連れ戻してみせます」


「はいはいよろしくね。次のライブに穴開けたら君はもうこの業界で働けないよ、一生」



次のライブってこいつ正気か?。



「承知いたしました」



 なかった自信がさらに急降下していく聡介だった。




     [  SaturN SIDE  ]


 一方その頃SaturNの二人は、他惑星に行く為にStar Collect Travel――通称SCT《エスシーティー》へやって来ていた。他の惑星へ渡るのには他にも手段があったが、大人気シンガーである二人は人目につかぬように、一般的にあまり使われていない手段を選んだのだ。



「ほんっっっとに人気ひとけねえな」


「設立されたのも数年前でまだ歴史が浅いし、他に便利な手段がいくつもあるからね」



ドーム状の建物の自動ドアを潜ると、辺り一面に沢山の物が無造作に散らばっていた。

 よれよれのぬいぐるみにかなり使われた形跡のある古いゲーム機、希少なワインに家族写真、それから指輪。



「なんていうか…統一感ゼロだね」


「誰か来たぞ」



溢れた物たちをかきわけるようにして、ここの職員だと思われる人物が「すみませぇん」とへらへら笑いながら現れた。



「私SCTの者です。そろそろでして、足の踏み場がなくて申し訳ない」



(大丈夫か、この人超頼りなさそうだけど)


(ちゃんと地球行けるかな)



二人が目で会話しているのには気づかず、職員は続けた。

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