第3話 Star Collect Travelとは?
「お二人はSCTのご利用は初めてで?」
「はいっ」
「バカ」
「そぉうですかそぉうですか。ではSCTが設立されるに至った経緯から丁寧にお話ししましょう」
胸に手を当ててペラペラと話しだした職員を前にネビュラはサキを肘でこずく。
「いかにも長話になりそうなフラグが立ってたのに、なんで利用は初めて?はい!って答えちゃうんだよ」
「ごーめーんー。でもSCTの話って聞いてネビ君はワクワクしない?」
「はぁ…する。するけども」
小声で話しながらネビュラは聡介が真っ赤な顔をして角をはやしているのを想像する。
「関マネが追いついて捕まっても知らねえぞ」
そんな心配性なネビュラだったが、彼も彼でSCTには興味があった。そこには特に理由はなく、なんか面白そうというだけ。
SCTの創設者はオリオンズベルト氏。彼はSCTを仮設したその日に受けた取材で、今の気持ちを聞かれ創設に至るまでの経緯などを話した。
『昔はただ文献で読んだ他惑星に実際に行って、文章やセピア色の写真からは知り得ないものをこの目で見るのが好きなただの好奇心旺盛な子どもだったんです』
懐かしむように話す彼の物憂げな表情をカメラマンは何枚も写真に収める。
『ただ好奇心を満たすだけだった私は、あることに気がつきました。ええ、それが惑星間の時間のズレ――光年時差の存在です。今でこそ当たり前なことではありますが、私の少年時代にはまだ明らかになっていなかったものですから』
目を伏せ感傷的に話すオリオンズベルト氏の感慨を他所に、インタビュアーは執拗に頷きながら血走った目でマイクやボイスレコーダーを彼へ向けている。
『光年時差の研究を独学で進めると共に、私は光年時差なく惑星間の移動が可能な手段を発明しようと考えました。研究に没頭しいつの間にか大人と呼べる年齢になるほど時間はかかってしまいましたが研究は成功し、光年時差なくして他惑星へ移動できる機関、SCTを立ち上げることにしました』
と、その時に刊行された世界的宇宙雑誌コスモの紙面を二人に見せ、自分は暗唱する職員。純粋に話に心を打たれるサキと、その暗唱能力に驚きを通りこして若干引き気味のネビュラはそれぞれ感想を口にした。
「他惑星に渡る手段としては徒歩ってのはかなり珍しいよな。いわゆる宇宙船は展示されてるだけで、今じゃ宇宙空間対応電車か同じく車が主流だもんな?」
「ええ。私が赤ん坊の頃――二十五年ほど前ですらもう展示物扱いでしたからねぇ宇宙船は」
「電車も車もやっぱり光年時差はあるから、SCTの登場は当時凄い注目を浴びてたよね」
「どれだけ技術開発が進んでも、光年時差を無効とするオリオンズベルト氏の発明は宇宙史に残るでしょうなぁあ」
現在、惑星を行き来するにはサキが先に口にしたように宇宙惑星間公共交通機関である電車か、私物の移動装置である車が使われている。時差が出ても問題のない惑星がほとんどの中、地球だけが時差に大きな影響を受ける。
「オリオンズベルトさんは惑星間の光年時差を失くすことに凄くこだわってたのかもしれないね。じゃなかったらこんな凄いもの高校生で創ろうって思えないよ…」
「当人は時間がかかったと仰られていますが、研究を始めてからSCT創設までの時間は研究者顔負け。脅威のスピードで機関を立ち上げてしまわれた。本当に素晴らしい志を持ったお方でしょう?」
「うん、そう思う!」
サキは単純だからすぐ感化される、と横で思っていたネビュラだったが、彼も静かに心打たれていた。
「残念なことに、彼は若くして亡くなられた。きっと目標を達成した途端にそれまで無理をしていたのが祟ってしまったんでしょう」
今では彼の娘であるセイリーン・オリオンズベルトさんがSCTのトップとして運営しているそう。
「彼女はおっかないですが、彼と同じ信念を持って働いている素晴らしい社長です。けれどSCTにはもう一つの仕事が…」
「あーええっと、俺たち急いでて」
まだまだ話のネタが尽きないとみえる職員の言葉を途中で遮るネビュラ。
「おっとすみません、おしゃべりが過ぎましたね。ではお二方の大切なものを切符代わりにいただきますね。それが光年時差を失くす動力源でもありますので」
だから利用者が少ないのかと納得するサキ。しかしネビュラは、そんな条件がある割には以外と利用客がいるんだなと辺りに散らばる物に目を向けるのだった。
SCTは地球のように一般的な手段では行きにくい星も移動先として登録されている。地球を嫌うこの星の住民でも、研究者なんかは調査のために地球へ出向くことがある。
宇宙惑星間公共交通機関ではそもそも行き先として地球が登録されていない所も多いので、SCTの利用客は常に一定を保っているのかもしれない。
普段人気があまりないものの、年間利用数で言えば案外利用客が少なくもない。日にち単位で言えばガラガラもいいところだが。
「貴方の一番大切な品は?」
「ネビ君と関マネ、母さんにファンのみんなだよ。ふふ、欲張りかな?。でもみんな一番なんだ」
「ふむ、そちらは?」
「サキと関マネとファン」
職員は困ったように顎をさすった。
「お二人とも物ではないものが一番大切と仰る。困りましたねぇ…ん?」
ピタリと止まった彼は鋭い眼光で二人を捉えた。
「ネビ君、サキ…聞き覚えがあるとは思いましたけど、まさかお二人はSaturNでおいでですかッ」
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