HAPPY GALAXY

青時雨

全てのはじまりは…

第1話 あの話

 宇宙史に残るであろう大事件の後、宇宙ラジオ放送局にて――



(始まってるぞ)


(これ読めばいいってこと?)


(そうだ)


(OK)



ラジオブースの中、打ち合わせやリハーサルなど皆無な状況下で二人の青年が小声で最終確認を行いながらマイクに向かって口を開く。



サ「はぁ~い。俺たち」


サ・ネ「「SaturNです」」


ネ「えーこの番組は、二人組シンガーユニットSaturNがお届けします」


サ「今日は特別企画なので、ラジオと同時並行で動画投稿サイトでも生配信してるよ。今視聴出来ないって子も、アーカイブが残るから安心してね」


ネ「ではまずこの曲から…ってもったいぶりすぎだろこの台本」



「いいや」と呟いた端正な顔立ちの青年、ネビュラ・カメロパルダリス。彼は台本を閉じてデスクの脇に置いた。

 それを見て、リアルタイムで動画に字幕を入れていたスタッフも白目をむいた。台本通りに話してくれないとわかった途端、彼らの負担は何倍にも膨れ上がる。

 一曲フルバージョンでお披露目予定だった新曲も、聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームにまで下げてしまう。完全にBGMと化してしまった。



ネ「こっからはフリーで話す」


(おいネビュラ勝手なことするな)



胸中をスケッチブックに書きブース内のネビュラに見せるものの、ドヤ顔で言い放ったやつは特に意に返した様子もない。

 その態度にメガネを外し眉間を摘まむマネージャー、関口せきぐち聡介そうすけ。すぐさま字幕担当スタッフに頭を下げると、聡介はラジオブース内の奔放な青年達に睨みを利かせる。



サ「ええっと…関マネがブースの外で怒っていますが、みんな早く聞きたいよね?」



温厚な雰囲気で愛嬌のある笑顔を見せるもう一人の青年、サキ・トーラスは顔の前で両手を合わせ謝罪の意をブースの外の関係者へと送る。それを見たスタッフは嘆息し「仕方ないなぁ」といったように、急遽進行が変更となった放送に慌てることなく対応を続けた。

 SaturNと仕事をする者は初めこそ慌てふためき迷惑がるが、何故か次第に二人のペースに呑まれ最終的には折れてくれる。そうでなければこのわがままな二人がこの業界で生き残れるとは到底思えない。

 余談だが、SaturNは業界ではよく人たらしユニットと呼ばれている。

 デビュー当時のファン層は若者中心だったものの、今となっては宇宙規模で愛されるようになった二人は、嬉しいことにスタッフからも愛されていた。



(まあ、悪いやつらではないんだが)



それなりに苦汁を飲んできた経験もあるし、本人たちのわがままは今回の一件を除けばいつもファンのためであることを関係者は理解してくれていた。なによりあいつらの人柄が、スタッフがここまでわがままを許してくれる理由なのかもしれない。



ネ「このラジオではいつもコーナーがあるけど、今日は特別回だからそこんとこすっ飛ばしてもいいか?…いいよってコメント沢山流れてんな、ありがと」


サ「今日はを詳しくじっくりお届けしまーす」



早速暴走してくれる。

 ラジオのブース外では「台本通りにお願いします」と太文字赤字で書かれたカンペを呆れ半分面白半分といった表情で下ろすスタッフ。

 いい加減二人にはこっちの苦労も少しはわかってほしいものだ。

 というのは、マネの俺や周りの人間に一言も相談せずに地球に逃亡した話だ。まあ、それだけでは宇宙問題には発展しなかっただろうが。

 後から事情を聞けば、きっかけはサキが夢を叶える自信を見失い書きたいと思える曲を書けなくなったことだったらしいが、息詰ったあいつの逃亡という思いつきを止めずに乗るタイプの相方だったのがまたよくなかった。ネビュラは行動力がありすぎる、いい意味でも悪い意味でも。

 幸いにも多くのファンは二人の判断に理解を示してくれて、地球で休暇を取ると決めた二人にSNS上で温かい言葉を投稿してくれていた。正式な休暇ではないことも承知の上、SaturNはいつも唐突に事を起こすことをファンも知っていて慣れている。

 一番困らされたのはマネである俺と事務所。逃亡したあいつらに「いいよいいよ」とどこか甘い関係各所に謝罪とお詫びをして回るのは全部俺。ほんっとうにこいつらには手がかかる。



サ「関係各所に迷惑をかけちゃったから、ちゃんと俺たちの口から説明する機会が欲しくて」


ネ「付き合いの長いこのラジオスタッフや関マネに無理を(現在進行形で)言って、皆さんの協力の元事の顛末を話すから」



この事前に話しておいてくれないというのは二人に早く直させないといけない悪い癖だ。よく今まで業界から干されなかったもんだ。まあ干したもんならファンが暴動を起こしてそれはそれで大変な事態を招くのだが。

 どの星の人間かを問わず宇宙規模の人気を博しているからこそ、こんなやつらでも上手く厳しい業界の橋を渡れてるんだろう。

(もうやけくそだ)

口をあんぐり開け戸惑いを隠せないでいる新人スタッフはひとまず無視して、ブースの扉を開ける。

 俺が入って来たくらいじゃ狼狽もしない二人、楽しそうににこにこしているネビュラのマイクを乱暴に引き寄せる。



関「マネージャーの関口です。SaturNサイドだけのお話をされるのは癪なので、迷惑を被った側の私サイドのお話も挟みたいと思っていますのでよろしくお願い致します」



サキもネビュラも俺の言葉に驚きつつも、嬉しそうにしやがる。



サ「じゃあそう言うことで。ではまず俺がネビ君に今回のことを提案したところから…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る