第43話 同じ時間を共有できたことを祝して
「情報量が多くてパンクしそうかもだけど、俺の話もちょっとだけ聞いてほしい。俺は他星でSaturNというシンガーをやっています。俺の夢はみんなが仲良くするきっかけになるような歌を届けることです」
聡介も詳しくは知らなかった、サキの抱えてきた大きな夢。
ステージで未だ話し続ける彼は、人の気持ちは連鎖していくものだと言った。誰かに優しくされた人間は、人の気持ちを慮る心を持てる。誰かに憎しみをぶつけられた人間は、誰かを憎む心を持ってしまう。そうやって人の感情は連鎖し循環している、と。
「この夢が演奏を通して沢山の方に伝われば、きっと今より人と人とが手を取り合える優しい世界になると信じています」
ステージ上に立つ仲間も、裏方として働く人間も、観客も、サキの言葉に静かに耳を傾けていた。
「彼と…祐と出会ったことで、地球人とも自星の仲間と同じ様に仲良く出来るんだと思いました。絶対に嫌いな人や馬の合わない人っていると思うんですけど、それって自星他星関係ないんじゃないかって思うんです。だって仲良くなるのに自星も他星もないんだから」
納得いっていない、今にも反論したいといった顔をした観客を目にして言葉に詰まるサキを気遣うように、ネビュラが彼からマイクをそっと取る。
「SaturNの夢は、土星の円盤の様に誰もが手を取り合える優しい世界を、俺たちの音楽で実現することです。誰もがの中には当然みなさんも含まれます。だから最後の曲はHAPPY GALAXYのメンバーの許しを得て、俺たちのデビュー曲のリメイク版を地球のみなさんに聞いてもらいたいと思います」
ネビュラがそこまで言ったのを機にサキが指を鳴らし、それを合図にステージの照明だけでなく、イベント会場全体の灯りが消えた。
「最後の曲になります。聞いてくださいSATURN」
サキが曲を紹介するほんの数秒で祐とネビュラが場所を交代し、祐はメンバーひとりひとりにめくばせをしていく。
斬新な前奏が流れると、いつ搬入していたのか普段自星でSaturNのライブで使用する低空飛行型大画面モニターが飛来してきて、聡介はその画面に映った映像を見て血の気が引いていくのを感じた。
色んな角度からステージを映した映像の流れるモニターが低速度で飛び交う。
「もう手がつけられない…」
情けない声を出した聡介の肩に、慰めるように幸人は手を置いた。
「SNSのある時代、地球でも直ぐにSaturNのことは広まる。宇宙にもテレビ局があるようだし、各局が取り上げれば地球人に留まらずどの星の住人だって今日のことを知ってしまうわね」
けど、と幸人さんはサキとネビュラが今回のことをどう考えているのかについても詳しく教えてくれた。
本来であれば自星でも、他星に宇宙戦争を開戦する口実を与えてしまうような大きな問題なのだが、そこに宇宙規模で名が知れていて各星にファンのいる自分たちが一枚かむことでなかなかそれは難しくなるのではないかと考えたらしい。
本来なら自星の軍事力を上げるためにSaturNが協力したと思われてもおかしくないけれど、あの二人は事前にその点を口実に宇宙戦争を開戦しようと企みそうな各星の要人と宇宙戦争に発展してしまうようないかなる事柄にも協力しないという締結を勝手に結んで来たらしい。だからSaturNがどんなに地球で地球人と仲良くしようとも、締結を結んだ手前要人たちはSaturNの行動を宇宙戦争開戦の理由として結びつけ武力行使することが出来なくなる。
今回騒動が起きたとしても、SaturNが地球でゲリラライブをして宇宙人の存在を強制的に地球人に明かし認めざるを得ない状況にしたことだけが問題視されるだろうと、あの二人はそこまで読んで行動していたようだ。
今日のこの景色を見た瞬間から懸念していたことを、SaturNも念頭に入れていたことは褒めるべきことだ。しかし、どう慎重にことを進めようかと考えていた算段が見事に崩れた。
聡介は苛立たし気に舌打ちをする。
「宇宙戦争開戦の原因になるのは免れたが、地球人に宇宙人を認知させることに慎重になっていた全星からのバッシングはどうしたって避けられない。俺の力では…二人を守り切れないかもしれない」
「覚悟の上で一か八か、ってことだったのかもしれないわね」
勝手なことをした責任をとらされて、もう二度とステージには立てないかもしれないと彼らにも自覚があるのか、弾ける笑顔で歌う二人の表情には時々愁いが混ざっているような気がした。
心配ご無用、と聡介と幸人の間から突如顔を出したのはヴィルゴだった。
「SaturNにはそれはもう沢山の味方がついていますからねえ。それに…」
ヴィルゴがステージに合図を送ると、サキはネビュラと同時に叫ぶ。
「「今夜地球人と異星人である俺たちが共に歌えたこと、そしてここにいる皆さんと同じ時間を共有できたことを祝してっ」」
二人がステージの後ろを振り返り上空を指さす。それと同時に聡介の背後にいたヴィルゴが持っていた無線に向かって「お願いします」とどこかへ指示を出した。
するといくつもの流れ星がとめどなく夜空を駆ける。
「彼らからご返却頂いたサングラスもあの中に含まれていますよぉ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます