EPILOGUE

第47話 ステージへ

     [  サキ SIDE  ]


 地球に逃げてしまいたくなる前。

 サキは、自信を無くしていた。

 心無い言葉や誰が言っているのかもわからない誹謗中傷に心を痛める以上に、自分の歌が己の夢を叶えられるほどの力を未だ持てていないことに絶望した。

 心が弱ってしまったサキの耳に、ある時から宇宙戦争の話題が頻繁に入るようになった。

 どんなに自分が頑張ろうとも、手と手を取り合えない取り合おうとしない、取り合うふりをして騙す人が世の中にはいて、そんな人の心には自分の歌などどうやったって届かないのかもしれないと、幾度となく涙を流した。

(やっぱり自分の夢はきれいごとで、夢物語なのかもしれない。一シンガーでしかない俺に、同じ宇宙に住む人たちがもっと互いに優しくなれるような歌を届けることなんて出来ないのかもしれない)

 考えれば考える程自分が無力に思えて。歌詞を書こうとペンを執る手が、新たな旋律を生み出そうとするギターを弾く手が、自分でも驚くくらいに震えて動かなくなってしまった。

 有名になるまでは、有名になってもっと多くの人に自分たちの曲を聞いてもらうことが目標だった。自分の歌で何かを変えられると信じて疑わなかったあの頃は、ただがむしゃらに今いる場所を目がけて突き進んで来ることが出来た。ここに来ればどんな人の耳にも、そして心にも歌声が届くと思っていたから。

 だけど、目標の場所に立ててしまった今、自分の歌はどれだけの人の心に響いているのだろう。

 初めて夢をみたあの日と今で、何かが変わったのだろうか?。

 今でも遠く離れた星では名もない戦争が繰り広げられているし、どの星でも差別はなくならない。

 どれもこれも、自分たちに競争本能や感情がある限りはなくならないのかもしれない。

 それでもサキは自分の夢を諦めたくはなかった。

 その葛藤が、今回の逃亡劇の発端となった。

 夢と現実に押し潰されそうな今の環境から、何もかも無責任に放り出して逃げ出したかった。

 このままだと夢の重さに自分が壊れてしまいそうだったから。現実の残酷さに、夢を追う足を止めてしまいそうだったから。

 起こした騒動に全てケリをつけた今、地球での開催が決まったライブコンサートのステージ下にいた。

 ファンの喧騒が反響していた会場内に、ライブの始まりを告げるイントロが流れ始める。サキはその音を聞いて、徐々に現実に引き戻されていく。



「なあサキ」


「ん?」


「俺たちの歌が少しずつでも宇宙を平和に近づけてるといいな」



身勝手な逃亡に付き合ってくれた、いつも自分の傍にいて一緒に同じ夢を見てくれる親友。

 あの時のネビ君の『いいじゃん、行こうぜ』の一言がなければ、地球に行くこともなかったし、自信を取り戻すことも出来なかった。

 何にも代えがたい唯一無二の最高の相方に肩を組まれ、ライブの始まりを待ち望むファンのカウントダウンする声に心地よく寄りかかる。



「うん」



(きれいごとでも夢物語でも、それをちょっとずつ現実にして行けたら。いつか俺たちの夢で満たされた宇宙は平和になるのかな)

そう訊いたらきっと自信満々に「なる」と言ってくれる心強いネビュラが隣にいてくれてよかったと、そう思いながらサキも彼と肩を組み、二人は勢いよく上昇する足場から地上のステージへと飛び出した。



                           HAPPY END

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HAPPY GALAXY 青時雨 @greentea1

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