第21話 相方とのまさかの再会
「お前も大概お人よ…失敬、いいやつだろう?」
幸人さんを送り届けた件のことを言ってるのだろうか。満美ちゃんは目で問うように俺を見上げた。ていうか、今お人よしって言いかけただろ。
「なあ何食べる?」
広場には昼時ということもあって人がごったがえすとまでは言わなくても、そこそこいた。みんなここら辺の会社のビルから歩いてここまで来ているのだろう。学生よりも社会人の方が多い印象を受けた。
「時間はあるし、あそこに並ぼう。それでいいか?」
意外と決めてくれるタイプのようだ。
ネビュラは優柔不断な男だったので、助かったと内心思っていた。いつも何かを決断するのはサキの領分だから、何かを決めるのは食べ物ひとつとっても時間がかかって仕方がない。
「ところでバイトは」
「堕ちた」
「そうか」
列に並びながらしりとりをするのには気分が乗らず、そろそろ沈黙にも飽きてきた頃合いにそう尋ねられ、落ち込んだ気持ちが蘇って来た。
蒸し返してしまったと申し訳なさそうにしながら「まあ、そう落ち込むな」と励ましてくれた。
「仕事にならない、ってさ。俺の顔が良すぎて」
面接を受けたバイトはそれほど人と関わらないものだったけれど、俺がいるその場の社員の目線が俺から動かなくなることを懸念された。
「俺に出来る仕事はやっぱりSaturNしかないんだってなんか妙に感慨深くなっちゃって」
「相方が恋しいか」
「その表現気持ち悪いからやめてくんない?。でもまあ…心配ではあるな」
「元気にしているといいな」
なんだかいい話風な空気感になったところで、前の客が会計を終えて横にずれた。注文しようと数歩前に出て店員の顔を見た途端、その空気は一瞬にして吹き飛んだ。
「らっしゃいませー」
「…ほんと、何やってんの?」
目の前には心配していた相方が難なく採用されましたと言わんばかりの顔で立っている。
「バイト。ドリンクどうします?」
「いやそりゃ見ればわかるって。メロンソーダ…」
俺が視線をやれば、満美ちゃんは無言でメニューを指さした。
「とカフェオレ」
「居候させてくれてる子にあんまり迷惑かけれないから思い切って初めてみた☆。ポテト美味しいですよ」
「メイク上手くなってるし。じゃあポテト二つとこのバーガーとこのホットドッグ」
これじゃあ心配してた俺の方が心配されるくらい上手くいってなかったじゃん。
「友達が教えてくれた。ご注文ありがとうございます」
サキとネビュラのちぐはぐなやり取りを見ていて、満美はもう我慢の限界だと言わんばかりに吹き出した。
「知り合いか?」
「これが相方だ」
奥の強面の店主に注文内容を早口で伝えると、サキはまたこちらに向き直った。
「千四百円です。割り勘なら一人七百円です。そろそろ上がるから待っててよ。俺も仲間に入r」
「飯が冷めるから嫌だ」
「ばっさり…。でもその通りでございますね、料理は冷める前におめしあがるもんだと思う…ん?」
もはや砕けた口調と接客用の言葉遣いがめちゃくちゃだ。
「面白いやつだな。お前の相方だって聞いて納得がいった」
「おいそれどういう意味だよ。あぁ、もう」
調子を狂わせながらも、「紙とペンあるか」と問うとサキは見えない尻尾を振りながらそれらを用意した。
「俺は今ここにいる。住所だ。これからどうするかゆっくり話し合おう」
サキも同じように紙にペンを走らせる。紙を受け取るとそこには住所ではなく似顔絵が描かれていた。
「何だよこれ」
「俺。ネビ君は寂しがり屋だから俺の似顔絵」
無表情なことが多い満美ちゃんがついに声をあげて笑いだした。目に涙まで浮かべて。
自分だけ過去のことまで振り返ってセピア色に染まりながら感傷に浸ってたことが急に恥ずかしくなってきたネビュラは、商品を渡されるといよいよその場から離れた。
「いいのか」
「気が向いたら来るだろ」
サキが視界に入らない場所に設置されたベンチに二人並んで座り、昼食を摂る。
((元気そうでよかった))
サキもネビュラも、同じことを考えているのであった。
[ 聡介 SIDE ]
聡介は良く働く真面目な男であった。が、とにかく運がいいのか悪いのかという微妙な運の持ち主だった。いつもピンチな状況には助っ人に適した人物に巡り合えるのだが、そこから人一倍苦労してしまうことが多い。
「はぁあぁ、疲れました」
祖母の家から今日も慣れない地を回ってはSaturNの捜索に勤しんでいる聡介とヴィルゴ。
彼以外のSCT職員も含めて二人ペアを作り、ペアごとに別の場所を探して捜索範囲を広げているが、未だにみつからない。
「いますかねぇ。まだ、ニホンに」
「あいつらならとっくに誰かと打ち解けて、今頃馴染んでる頃だろうな」
「別の国には行かず、この国に未だ滞在していると踏んでいるのですね」
ビル群に囲まれた大きな広場では、夕日が沈むのを見て軽食を売っていたワゴンが次々と店じまいを始めていた。
水色のワゴンの装甲に貼られたポスター。そこにはおいしそうなシェイクの写真とその売り文句が書かれている。聡介はそのポスターを見て、すくっと立ち上がる。
「甘い物お好きなんですか」
「単に糖分がほしいだけだ」
ぎりぎりまで販売を続けていたそのファストフードのワゴンでシェイクを二つ買い、一方をヴィルゴに渡す。
「地球は厚いだろ」
「ええ、想像以上に。温暖化が進んでいる惑星な上にここは島国みたいですからね」
ある程度地球の気候に耐性のある聡介でも額にじんわりと汗を滲ませていた。
店主にシェイクを頼んだ時、バイトだろうか。一人ワゴンから出て行くのが見えた。どことなくサキと背格好が似ていたが、考えすぎだろう。少しだけ見えた顔には整ったメイクが施されていて、そのレベルのメイク技術はサキにはない。
こんな強面の店主のところで働こうと思うなんて、相当心臓の強い子なんだろうなと聡介は感心しながら会計を済ませていた。
その話をシェイクを飲みながらヴィルゴに話す。
「俺も疲れてるんだろうな。その子が一瞬サキに見えた」
「案外変装していつもと全く違う格好しているんじゃないですかぁ?」
はは、と遠い目をして乾いた笑いを漏らす彼に「その可能性を拭えないのは確かだ」と同意する。
「けどメイクが上手かったから違うと思う」
「サキさんは不器用ですからねぇ」
ファン調べですが、と空になったシェイクのカップからストローを取り出し蝶々結びにするヴィルゴ。
カップが空になった後もしばし乳酸のたまった足を揉み解しながら、ベンチで明日の捜索場所について検討する二人。
探している人物は、すぐ傍にいたのに。またも逃してしまうという、本当についているようでついていない男である。
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