第41話 寄せ書き
二人がチーム名を考えている間、各自自主練をしていた。二十分ほどで祐が再び招集をかけスタジオ中央に集まったメンバーに、チーム名が発表されることになった。
「えー俺と祐が考えた渾身のコラボチームの名前は」
サキがお膳立てした台詞言うと、口でドラムロールを発する。コラボチーム名を表紙に書いたらしい活動ノートをドラムロールの終わりと同時にぱっと見せる祐。
「HAPPY GARAXYだ」
それを見て祐の持っていたペンを借りるニック。
「スペルミスがあるよ、GARAXYじゃなくてGALAXYだ」
Rを塗りつぶしてその上に矢印を引きLと書き直したニック。そうでなくても残念感の漂う名前だったのが、スペルミスを修正した痕がさらに残念感を増幅させた。
サキは普段作詞をするが、音楽以外のネーミングセンスがアレだったことを失念していたネビュラはいたたまれない気持ちになり、両手で顔を覆っていた。
別に変というわけではないのだが、ちょいダサ感が否めない。
「宇宙全体がハッピーになれるような演奏をしたいって意味を込めた」
自信満々に名前の由来について語るサキ。
「なら何でコスモスじゃなくギャラクシーなんですが?」
「コスモスよりギャラクシーの方が、その…響きがかっこよかったから」
拓馬の指摘に自信なさげに解説する祐。ちょいダサなのも趣があるし、今日のこの出来事も一つのいい思い出だと言ってみんながその名前を気に入ったところで、拓馬はタブレット上で作成を進めていたチラシの空欄にHAPPY GALAXYと入力した。
「そうだ、この活動ノートの表紙にみんなで寄せ書きしないかい?」
志音の提案に早速ネビュラと拓馬がのった。このままの表紙では残念感が漂ったままだと言わんばかりに、二人は必死にペンを走らせる。
『早く大学生になりたい 拓馬』
『何気にSaturN初コラボ 波人(N.C)』
二人が描き終えると、今度は志音とニックがペンを受け取る。
『独奏<一体感 を意識するよ 志音』
『I'm very happy. I love by Nick』
ニックは文章が上手く繋がるようにHAPPY GALAXYと書かれた上下にそう書き終えると、ペンは次に樹とサキに渡る。
『レベルアップしたボーカルを本番楽しみにしててね 樹』
『本番が終わっても、またいつかHAPPY GALAXYとしてステージに立ちたい 咲(S.T)』
最後に祐がペンを握った。
『五人でいつかデビューしたい。お前らは? 祐』
祐の書いた言葉は、彼の夢でもあった。しかし祐は自分の夢はメンバー全員が同じ気持ちでないと叶わないものだとわかっていた。一人でも同じ気持ちでないメンバーがいれば、自分の夢をそのメンバーに強いることは出来ないからだ。
今までは断られることを恐れて言えなかった言葉を、口には出来ずともこうして書き記して表明することが出来た。
彼の夢を知ったメンバーは、ノートを囲むようにして座った。樹と志音が苦笑しながらペンのキャップを外し、ニックは拓馬が筆箱から取り出したペンを借りる。
『いいね』
『俺もデビューしたい』
『祐と同じ気持ちです』
『今更何の確認ですか?』
祐の書いた言葉を囲むように書かれた四つの言葉を、彼は嬉しそうに指でなぞった。
「よかったね、祐」
「いつか地球で一番有名なバンドになってやるよ」
コラボチームの名前も決まり、祐たちの士気も上がったところで、彼らは再び本番に向けた練習を再開した。
☆ ☆ ☆
ライブが明日に迫ったメンバーは、ほぼ徹夜のまま建設作業が終わったライブステージに来ていた。本番に向けてのリハーサルを当日と同じスケジュールで行うためである。
広々としたステージには慣れているSaturNと違って、慣れていない祐たちは初め緊張していたものの直ぐに緊張よりも楽しさが勝ったようでステージ上を走り回ったり楽器をいじったりしていた。
予定していた5曲を通しで何度か演奏し終えると、照明や舞台装置の細かな調整に入ったので一旦休憩を取ることになった。
「二人の歌唱力と声量半端ないね。ついて行くのがやっとだよ」
柄にもなく疲れ果ててステージ上で寝転がる樹に、ネビュラが水の入ったペとボトルを手渡す。
「でもいい声だな樹は。それにこの短時間で俺たちと歌って自分の声が聞こえるようになるのは大したもんだと思うぜ」
「そう言ってもらえるとありがたいよ」
練習を始めた当初はサキやネビュラの声に樹の声はかき消されてしまうほど、二人には声量も歌唱力もあった。
ここのところずっと二人に稽古をつけてもらっていたことと、樹の本気が功を成したことで彼も付け焼刃ではあるが二人とほとんど変わらない水準にまで至った。
「みんなの方はどう?」
サキの問いかけに、祐が「もう問題ない」と答える。
サキとネビュラが増えた分、土台となるドラムのニックが崩れた。けれどそれもニックが日頃から練習を欠かさずしていたおかげで直ぐに立て直すことが出来たという。
「みなさん、ちょっといいですか」
忙しさのあまり目を回した拓馬が、休息を取っていたメンバーに持っていた端末の画面を見せる。
拓馬は今回裏方に徹すると意思を固めていたので、全面協力してくれている幸人さんの会社のスタッフたちと、朝から休むことなく照明の位置や音響の調整、セットリストの最終チェックにとステージ運営の中心にいた。
その目に疲労も窺えたが、やりがいがあるようで彼は活き活きとしていた。
「先程完成したチラシを試しに数枚刷ってきたのですが、どうでしょう。もし問題がなければこのまま予定通りの枚数を刷りたいと思います」
メンバー全員に出来上がったチラシを配ると、拓馬を賞賛する声があちこちで上がる。
「そのチラシ、よかったらうちのコピー機で刷って?」
手に紙袋を提げた愛手と段ボールを抱えた満美を引き連れて、幸人がステージ下までやって来る。
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