第27話 セイリーン・オリオンズベルト
社長と呼ばれた彼女は「ああ」と職員たちを労うように優し気な返事をすると、廊下の先の部屋にヴィルゴの姿を捉えて俺に断ってから廊下をつかつかと進んで行った。
居間まで来ると挨拶もしない彼を無視して祖母に頭を下げる。
「部下たちがお世話になってしまって申し訳ありません。急に押しかけてご迷惑をおかけしました」
「あら、きちんとしたお嬢さんね」
何故か嬉しそうに俺を見る。大きな勘違いが発生している気もするが、これまでの誤解といい最早説明するのが面倒くさくなってきた。
「迷惑だなんて、そんなことないわよ。寧ろお客さんが沢山来てくれて、料理のし甲斐があるわ。あなたも是非食べてお行きなさいよ」
「あ、いえ私は」
止めようと手を伸ばすも、祖母が嬉しそうに台所に去って行く様子を見てその手を下ろした。代わりに聡介を見上げる。
「うちの職員、特にヴィルゴがご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」
「あなたも彼が部下だと何かと大変そうですね」
互いに苦笑いを浮かべると、小鉢と箸を手に彼がやっとこちらにやって来た。
「社長、お疲れ様です」
「…とっとと食って今から他の職員と例の物を探してこい」
諦念の滲んだ声音で指示すると「残業代は出ますか」などと言うものだから、青筋を立てた彼女は彼の尻を蹴飛ばして玄関へと向かわせた。玄関口の方から「ご馳走様でした~」と何の反省の色も見えない間延びした声が聞こえて来た。
「あなたの分のお食事が用意出来ましたよ。あら、他のみなさんは?」
不思議そうにする祖母に困った様子で口を開いたり閉じたりしている彼女に助け舟を出す。
「それよりおばあちゃん、彼女に食べてもらおうよ」
「そうね」
申し訳なさそうに振り向く彼女に「報告、どうせあいつしてないですよね」と小声で呟いた。
食事を終え少し外に出て来ると祖母に告げた後、彼女と近場のファミレスに入る。この時間であれば客足も多く、店内の騒がしさに自分たちの会話を他の人間に聞き取られる心配がない。
窓側の奥のソファ席を彼女に進め、適当に珈琲と季節限定のデザートを二つずつ注文する。
「名乗るのが遅れました、私はこういう者です。セイリーンと呼んで頂ければ」
渡された名刺には、〝Star Collect Travel CEO セイリーン・オリオンズベルト〟とあった。確かSCTの創設者であるオリオンズベルト氏の一人娘で、父親を亡くした後若くしてその座を継いだと新聞で読んだ覚えがある。
「関口聡介です。この星のこの国の生まれなので、聞きなれない響きかとは思いますが」
自分の名刺を渡すと、「SaturNのマネージャー、ですか。お互い苦労しますね」と受け取り、早速パフェにスプーンを入れた。
名刺交換と軽い自己紹介を終えると、これまでの経緯とヴィルゴと協力していた旨を彼女に伝えた。彼女もまたどうして社長である自分自らが赴かなければならなくなったのかを説明してくれた。
「セイリーン社長やSCTの職員のみなさんがお探しなのは、あいつらが持って行ったサングラス、ですよね?」
「ええ。サングラスは他惑星への他の移動手段ではサービスとして配布される物なので、お二人は勘違いをされたのかとこちらは考えております」
彼女の話によると、SCTで切符代わりに客から回収する大切な物はSCTのもう一つの大事な仕事に使われるらしい。大事な物として回収した物の中にサングラスがあり、それをあの二人は持ち出してしまっているのだそう。
「事情は分かりました。あいつらがご迷惑をおかけしてしまって本当に…」
「いえ、ヴィルゴと彼の指導不足だった私の責任ですのでそこはお気になさらず。ただ、この件はくれぐれもご内密にしていただきたいのです」
SCTのもう一つの仕事というのは、SCT関係者以外には口外禁止にしているという極秘の職務内容らしい。
「それを私に話して大丈夫なんですか。勿論口外はしませんけど」
「緊急事態ですし、ご迷惑をおかけした身としてきちんとご説明した方がいいと判断しました。それにSaturNのマネージャーなら口が堅そうで信頼出来ます。ヴィルゴの方がよっぽど口外してしまいそうで心配が絶えません」
そう言って眉をハの字にするセイリーンさんは「もう一つパフェをいただいてもよろしいですか」と言いずらそうに尋ねてきたので、ファミレスのシステムに慣れない彼女の代わりに呼び出しボタンを押してウエイトレスに再びパフェを注文をした。
気に入った、というよりも連日の仕事に忙殺されて沢山使った脳みそのために糖分補給をしたいという雰囲気だった。もしそうなら、それはとても共感できる。
「明日からは私も捜索に加わりますので、よろしくお願い致します」
「あまり無理なさらないでくださいね」
(こんなにいい上司がいるのに、ヴィルゴのやつ…)
内心ぼやきながら、あいつからSaturNをみつけたという着信がないかを確認した。
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