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「って、そんな
突然、彼女たちが乗る馬車に矢の雨が降り注いだ。
無数の矢が
敵が追いかけてきたのか?
いや、いくらなんでも人間の足で馬車に追いつけるはずがない。
そうなると、敵はライズたちが包囲を破って、彼女たちが逃げ出す可能性も考えていたのだろう。
城下町にある建物の屋根に陣取っている姿が見えるのが、何よりの証拠だ。
これは敵が元々考えていた作戦なのか。
それとも戦闘中の状況判断で出された指示なのかはわからなかったが、追撃に待ち伏せと挟まれ、馬車は町外れにも、城がある王宮にも向かうことができなくなった。
「今は逃げることだけ考えるよ! それでいいかい、ティア王女!?」
ポムグラが叫ぶようにティアに訊ねながらも、彼女はすでに安全な道へ馬車を走らせている。
返事など聞いている余裕などない。
荷台も激しく揺れているので、ティアたちは口を開けば舌を噛みかねない状況だ。
矢に続いて、炎や雷までもが馬車に襲いかかってくる。
それら魔法もかなりの腕前で、正確に狙いをつけていた。
荷台の幌に火がつき、さらに風を受けているので燃え上っていく。
そんなことはお構いなしとばかりに、敵からの凄まじい攻撃の嵐は続く。
「あーあぁ、こりゃ本格的に直さないとダメだね」
「ちょっと御者の姉貴! 今はそんな心配している場合じゃないでしょ!? このままじゃマジでヤバいって!」
「安心しなってバンディー。ワタシが乗ればどんな男も馬車も、いつも以上に張り切ってくれるってもんさ!」
だが、それでもポムグラは巧みに馬車を操縦して敵の攻撃をすり抜けていった。
王都の城下町から脱出し、近くに見える森へと走っていく。
暗い森に馬車が入っていくと、もうこれ以上追うのは無意味だと判断したのか、敵の攻撃は止んだ。
ポムグラはそれでも馬を休ませることなく走らせ、後ろをバンディーに見張らせた。
それから彼女が追手が来ていないことを確認するまでは止まらず、森の奥深くまで入り込む。
皆で幌についた火を消して外してから、荷車の車輪にヒビが入っていたこともあって、ここからは歩いていこうと話し合った。
「その前に、この子に水を飲ませてやっていいかい? ずっと走りっぱなしだったから、少しでも
もちろん誰も反対はしない。
ポムグラの馬の頑張りがなければ、全員町で殺されていた。
追手もいない今の状況で休まなければ一体いつ休ませてやるのだと、ライズたちはむしろ率先して休憩しようと返事をした。
実際に彼女たちも限界だった。
ライズは大怪我とはいえないまでも傷だらけ。
バンディーも魔力が
ポムグラも馬車の操縦で神経をすり減らしたようで、口数が少なくなっていた。
現状で体力的な疲労が少ないのはティアだけだが、他の者たちよりもいくらかマシといったレベルである。
なぜこんなことになってしまったのか?
スヴェインたちのほうはどうなっているのか?
こちらが敵を捕らえるはずが、まさか返り討ちに遭うなんて。
ポムグラが助けに来なければ、確実に全滅していたと思ったティアは、彼女に訊ねる。
「ポムグラさんはどうしてあの場に? 屋敷でも挨拶をしないまま帰ったから、私たちがあの廃墟に行くなんて知らなかったでしょう?」
「別の仕事で外へ出ててね。町へ戻ってたまたま廃墟の側を通ったら、なにやら騒がしくてさ。気になって近づいたらあんたらがいたってわけ」
話を聞いて運がよかったと思ったティアだったが、すぐに思い出す。
団員たちが殺されてしまったことを。
身が震え、表情が曇るティアを見たポムグラは、馬を撫でながら彼女に声をかけた。
彼ら彼女らが死んだのはティアのせいではないと。
「詳しくは知らないけど、あんたらが追っていた組織がそれだけ強敵だったということでしょう。不意を突いたのに待ち構えているなんて、誰にも読めやしないよ」
「ああ、ティアは悪くねぇ。問題はこれからアタシらがどうするかだ」
ポムグラに続き、これまで黙っていたライズが口を開いた。
全身に痛々しい傷が残っていながらも、どうしてだが彼女の口角は上がっている。
その笑みはまるで、口から頬、耳の近くまで裂けているかのようなものだった。
不気味な表情のままライズは、地面に座り込んでいた状態から立ち上がると、ティア、バンディー、ポムグラ三人を見ながら言う。
「あの連中をこのままにしておくわけにはいかねぇ。全員ぶっ殺して、みんなにしたことの罪を償わせてやる。お前らも当然、アタシと同じ考えだろ?」
「そんなのあんたが言わなくったって、アタイだけでもやるつもりだったよ」
バンディーも立ち上がってライズと向き合った。
ティアも表情を引き締め、ライズに向かって力強くうなづく。
ポムグラはそんな彼女たちを見て、大きくため息をつくと、呆れながらも微笑んでいた。
そんな空気の中、バンディーが皆に提案する。
「今は身を隠す場所が必要だよね。王都からはちょっと遠いけど、いいところがある」
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