24

扉の中は真っ暗で何も見えなかった。


すぐにバンディーが詠唱を始め、彼女の手から魔法陣と共に炎が現れ、地下室内を照らす。


中は意外にも広かった。


机が一つに、部屋の隅には樽がいくつも並んでいる。


机の上には二つの容器を管で接続した蒸留器――アランビックや、鮮やかな色の薬が入った瓶がいくつもあった。


壁には何かの地図だろうか。


どこかの地域と思われる絵の上に、魔法陣の記載されたタペストリーがかけられている。


さらには本棚があり、そこにはかなり古そうな本が詰まっていた。


ここで何か実験でもしていたのか?


または倉庫にでも使っていたのか?


ティアは本棚から本を一つ取って読んでみるが、見たこともない文字で書かれているため、内容はわからなかった。


ライズも樽の中をのぞき、バンディーも彼女に続いて室内を探り始める。


「ずいぶんと本格的な道具をそろえてんな。本当に盗賊かよ」


「こりゃアタイらじゃ、ここで何をしてたかわかりそうにないねぇ。ティア王女ならなんかわかる?」


バンディーに訊ねられたティアにも、当然わからなかった。


ティアは王女ながら様々な分野を独学で勉強しており、基礎的なことならば多くの物事に精通していると自負があった。


そんな彼女でも、この地下室が一体何のためにあるのかは理解できない。


机にある道具からして、化学実験と魔術的なものだと推察できるが、ただそれだけだ。


「ううん。私にもさっぱりで……」


本を棚へと戻したティアは、視線をバンディーへと移した。


そのとき、アランビックや瓶詰めの薬と一緒に置かれた羊皮紙ようひしが目に入る。


無造作に置かれた羊皮紙に違和感を覚えたティアは、それを手に取った。


そこに書かれている文字は本とは違い、読み書きができる者なら誰でもわかるものだった。


「うん? なんて書いてあるの、それ?」


「なんだバンディーって、字が読めなかったのか? まあ、アタシもだけど」


「ちょっと二人とも聞いて! これに書かれていることが本当なら、私たちはとんでもない組織を相手しているかもしれない!」


――ティアたちが地下室に入った頃。


スヴェインもまた仲間たちと共に、町外れにある組織の隠れ家へと侵入していた。


作戦はティアたちと同じく義賊団十五人に建物を囲ませ、中にはスヴェインとゾルゴルド、あと団員二名で入るというものだった。


「やはり少し前まで人がいた形跡があるな。お前ら、油断するなよ」


スヴェインたちが侵入した建物は、木々に囲まれた館だった。


こちらは廃墟ではなく、まだ真新しい外観をした建物だ。


とても義賊団を名乗る組織が隠れ家にしているものには見えない、ずいぶんと洒落た別荘のような館である。


中には灯りがついていたのもあって、スヴェインたちは二階から侵入。


足音を立てずに室内へと入り、部屋を一つずつ調べている。


スヴェインを先頭にそれぞれがナイフなどの武器を持ち、部屋に誰かいれば問答無用で取り押さえるつもりだ。


彼らが館に入ってから数分後――。


突然、館の外から悲鳴が聞こえた。


その声は一つだけではなく、何人もの男の叫びがスヴェインたちがいる館内まで響いてくる。


「くッ!? まさか襲撃が読まれていたのか!? 全員、外へ出るぞ! 待機している奴らと合流してこの場を切り抜けるんだ!」


スヴェインが声を張り上げた次の瞬間――。


彼と共にいたゾルゴルドと二人の団員の姿が消えていた。


「おい、お前らどこへ行った!? まさかこんな一瞬でやられたのか!? 生きているのなら返事をしろ!」


慌てて身構えたスヴェインが周囲を警戒し、恐る恐る廊下を見回していると――。


「ぐはッ!? な、なんだ……と?」


四方から飛んできたナイフによって、全身を貫かれてしまった。


無数のナイフが体中に刺さった姿は、まるでハリネズミのようになっていた。


スヴェインは、痛みに耐えながらもなんとかその場から離れようとしたが、もはやそんな力は彼に残っていなかった。


ついに力尽きて倒れたスヴェインの前に、一人の男が現れる。


「これで義賊団は機能しなくなる。あとは王女を捕えれば……」


「貴様が黒幕か……。な、なぜ義賊団オレたちの名を語る……? 貴様らの目的はなんだ!?」


ぼやけていく目を見開きながら、スヴェインは男の顔を見ようとした。


だが、頭を思いっきり踏みつけられ、床に顔を押しつけられてしまう。


男は喋らない。


スヴェインを見下ろしながら手を振り、宙に浮いていたナイフを操る。


ナイフはまるでマリオネットのように男の手――いや、指の動きに反応し、仰向けに倒れているスヴェインの胸を突き刺した。


大量の血が噴き出し、床や周囲を真っ赤に染めあげた頃には、スヴェインはもう動かなくなっていた。


目を開いたままスのヴェインを蹴り上げ、男はあった近くにあった窓から顔を出す。


館の外には、十五人いた義賊団の全員が死体となって倒れている。


そして、男の仲間だと思われる深くフードを被った者たちが、死体となった団員らの体に刺した武器を抜き取っていた。


「そっちも片付いたようだな。では、これから王女たちがいるほうへ加勢に行くぞ」

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