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――その後、屋敷に戻って、皆で顔を合わせて襲撃の準備と打ち合わせをおこなった。


ティアが調べていた義賊団を名乗る組織の隠れ家は二ヶ所。


チームは三十人いる義賊団を半分に分け、町外れのほうにはスヴェインとゾルゴルドが行き、貧民街の居住区にはティア、バンディー、ライズ三人で向かう。


スヴェインはあまり王都に詳しくないようだが、彼らのほうにゾルゴルドがいるため問題ないだろう。


「では、これから作戦を決行する。お前ら、ちゃんと指示には従えよ。特にライズ、お前は一人で勝手をするな」


「言われなくてもちゃんとやるって。ったく、いちいちうるせぇな、スヴェインさんは」


スヴェインが名指しでライズを注意すると、団員たちからドッと笑いが起きた。


緊張感がある雰囲気だったが、スヴェインの言葉が彼ら彼女らを和ませたようだ。


注意されたライズも、スヴェインの意図をわかっていたようで、口では不満を言いつつも気にしてはいない。


それから屋敷から出発。


寝静まった町中を進み、チームに分かれて目的地を向かう。


人目がない夜とはいえ、十五人以上はいる人数では目立つため、それぞれ距離を取って歩く。


ついに戦いが始まる。


ライズはティアたちに伝えていなかったが、ジニアスクラフト王国に入ったばかりの頃を思い出していた。


いきなり三人の男に襲われ、そいつらを返り討ちにした後に仲間に誘われた。


最初にバンディーたちと揉めたときは、彼女が義賊を名乗ったため、てっきりそのときの盗賊の仲間だと思ったが。


今では違うことがわかっている。


あのときの盗賊の誘い文句は、力がある奴ならカシラがいくらでも金を出すと言っていた。


義賊団には正式な頭目はいないが、あえて言うならスヴェインだろう。


だが、スヴェインは別に力のある者を欲していない。


それにまだ付き合いは短いが、彼らの金回りがよくないことも知っている。


その理由は、義賊団で悪徳領主などから奪った金のほとんどを、貧しい民に配っているからだ。


そんな金欠状態で、傭兵を雇う余裕などない。


スヴェインやバンディーたちが求める仲間とは、自分の意志で団に入るものだけだとライズは考えている。


そうなると十中八九。


ティアが調べていた組織が、ライズを襲った盗賊の仲間だろう。


これには妙な因縁を感じると、ライズは思わず口角が上がった。


「ここです。この建物がおそらく組織の隠れ家」


先頭を歩いていたティアが足を止め、ライズや傍にいた団員らに声をかけた。


貧民街の居住区にあったその建物は、外観はどう見ても廃墟にしか見えなかった。


朽ち果てた壁に、ガラスの割れた窓。


扉は開きっぱなしで、ここに人がいるような気配はまるでない。


しかし、ティアが言うならそうなのだろう。


ライズは背負っていた大剣を手に取り、ティアから突入する合図を待つ。


「へーここなんだ。なんかいかにもって感じだね。でも、こんなところに出入りしてたらすぐにバレそうな気もするけど」


「外観ではわからない造りになっているのかも。それか地下室でもあるかもしれない」


すぐに後続を率いていたバンディーらも合流し、ティアが確認の意味も込めて作戦を伝えた。


義賊団ら十五人は外で待機してもらい、建物の中にはティア、バンディー、ライズの三人で入る。


何かあればバンディーの炎魔法で合図を送るか、ライズが大剣で壁を打って大きな音を出して知らせる。


以上が突入作戦の内容だ。


「皆さんは建物から飛び出してきた人間を捕まえてください。中は私たちで片付けます」


「夜襲はいくさじゃ当たり前にあるからな。王都でぬくぬくしている連中に、本物の戦場ってやつを教えてやる」


団員たちは、腕が鳴るといったライズを見て笑いながら、建物を囲むように散っていく。


幸いここら辺は廃墟がつらなっているようで、多少暴れても警備兵はやって来なそうだった。


何よりも関係のない住民を巻き込まなくて済みそうだと、ティアは団員たちが配置についたのを確認すると、建物内へと侵入する。


月明りが隙間から入ってくるため、松明などの灯りは必要なかった。


出入り口から廊下を進み、いくつか狭い部屋を調べるが、やはり外から見たように中に人はいなかった。


その後も二階にも上がってみたが、ネズミが数匹いただけで人っ子一人いない。


言葉にこそ出さなかったが、ライズとバンディーは、こっちは外れだったかと思っていた。


そうなると、スヴェインたちが向かったほうが本命となる。


「まだよ、二人とも。さっき出入り口付近に地下室へ行ける階段があったわ。そっちへ行ってみましょう」


「でもよぉ、ティア。敵さんはどう見てもこっちにはいなそうだぜ」


「それでも、何か組織の正体や目的がわかるものが見つかるかもしれないわ。スヴェインさんたちに危険なほうを任せるのは悪いけど、私たちは私たちにできることをしましょう」


わかりやすくやる気を失ったライズに発破をかけ、ティアたち三人は建物の地下へと向かった。


階段を降りて下に着くと、そこには廃墟には似つかわしくない鉄の扉があった。


「こいつはなんかありそうだね」


「でも、鍵がないと開きそうにないわね」


「まあ、ここはアタイに任せなさい。伊達に盗賊はやってないよ」


バンディーはようやく出番だとでも言いたそうに、鉄の扉の前に立った。


そして彼女は、スヴェインに習ったという鍵開けの技術を披露してやると鍵穴に針金を刺す。


カチャッと音が鳴ると、バンディーが二ヒヒと笑いながらライズとティアのほうを振り返った。


「やっぱスゲーな、バンディーって。魔法は使えるわ、アタシとまともに打ち合えるわ、それに鍵開けまでできちゃうんだもんな」


「ええ、とても頼りになるわ。それに、その緑の瞳と金色の髪も素敵だしね」


「ちょっとそんなこと言われたらこっ恥ずかしいっしょ。そんなに褒めてなんも出ないって」


小声で照れるバンディーを、からかうようにライズが笑う


ティアはそんな二人を見て微笑むと、すぐに表情を引き締めて鉄の扉に手を伸ばした。

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