25
――
地上の廃墟へと上がった三人は、これ以上ここにいてもしょうがないと話し合い、外へ出ることに決める。
空振りだったが、組織の目的はわかった。
今は一刻も早くスヴェインたちがいるもう一方の隠れ家へ向かい、敵を捕らえることだ。
もしかしたらあちらでは戦闘が始まっているか、それともすでに敵を捕まえている可能性もあるが、急ぐに越したことはない。
ティアは羊皮紙を丸めて、ベルトに差し込んだ。
「とりあえず皆と合流して、その後はすぐにでもお父さまに知らせないと……」
表情を歪ませ、ティアは呟くように独り言を口にする。
組織の目的を知った彼女は、これはもはやジニアスクラフト王国だけの問題でないと、覚えた危機感に背を押されている気分だった。
彼女が焦燥感を覚えるほどの目的――。
羊皮紙に記載されていた内容とは、使用者の願いをかなえることができる魔導具についてだった。
ティアが理解できた範囲によれば、あの廃墟の地下室は魔導具を作るための部屋であり、棚にあった本や机にあった薬はそのためのもの。
壁にかけられていたタペストリーは、おそらく魔術側からのアプローチとして必要なものだったのだろう。
つまりは敵は、化学と魔術を使い、世界が根本からひっくり返るような道具を作り出そうとしていた。
組織が義賊団を名乗ったのは、そのほうが金品を奪うのに活動がしやすかったと思われ、焦るティアは、すでにその魔導具が完成していないことを願う。
「しっかし、そんなもんが作れるなんて、アタシにはとても思えねぇけどな」
「私もありえないとは思ってる……けど、可能性はゼロじゃないでしょ」
「でもよぉ。もしその道具ってのができちまってたら、すでにこの国がどうにかされちまってるんじゃねぇかな」
ライズの言葉を聞き、その通りだとティアは思った。
焦ってまともに思考が働いていなかった。
そう、ライズの言う通りなのだ。
彼女が口にしたように、すでに魔導具が完成しているのなら、今頃ジニアスクラフト王国に何かしら異常事態が起きているはず。
とりあえず王都では、ここ数日間でおかしなことはなかった。
だがそれでも、もしかしたら別の町で何かが起こっている可能性も捨てられない。
ティアたちが乗り込んだ廃墟には誰もいなかった。
まだわからないが、スヴェインたちが向かった隠れ家にも誰もおらず、魔導具を作ろうとしていた者がすでに王都を出ている可能性だってある。
そうなればもう、あとはジニアスクラフト王に組織のことと魔導具のことを伝え、手がかりがないまま国内中を捜索してもらうしかなくなる。
「なに考えてるの……私……。あぁッダメ! ぜんぜん冷静になれない!」
「そいつはちょっとマズいかも……」
ティアが頭を抱えて声を張り上げると、前を歩いていたバンディーはいきなり足を止めた。
それから彼女は、聞いていて寒くなるような声で言う。
「外にいる連中に、
バンディーは、ティアとライズに外の状況を伝えた。
彼女は夜目が利くようで、かなり離れた距離から外の様子が目に入ったようだ。
バンディーは一体何者だと口にしながら、激しく表情をゆがめていた。
声こそ抑えたままだが、その表情から、仲間をやられた怒りではらわたが煮えくり返っているのが伝わってくる。
それでも冷静さは失わないバンディーを一瞥し、ティアは歯を食いしばった。
ティアは団員たちの死を聞き、混乱していた頭がさらにおかしくなりそうになってしまう。
仲良くなってからまだ日は浅いが、腫れもの扱いされていた彼女にとっては、ようやくできた友人たちだった。
ギギナ、ダルタン、ガンビス、ポポル、ルギーノ、ヴォルマルフ、アンジャス、イオガーナ、フィナ、ヴィバス、レオタナ、ブナンザ、レゼ、ヌズルード、グレバド――。
外にいた団員たち全員の名前も、間違えることなく口にできるほど好きだった。
視界がにじむ。
呼吸が荒くなる。
しかし、ここはバンディーのように堪えるのが正しい。
うかつな動きをしてはならない。
「知ってるぞ、あのフードの連中……。前にやり合ったからなッ!」
自分を抑えようとしていたティアだったが、彼女よりもライズのほうがさらに感情的になっていた。
ライズは大剣を背から抜き、外にいたフードを被った集団へと突っ込んでいく。
それは、まるで野生の虎か大砲の弾か。
廃墟からライズたちが出てくることを警戒していたはずだった集団も、ろくな反応もできずに斬り殺されていく。
距離を取っていた者が魔法を使おうとしたが、ライズの振る鉄の塊は詠唱すらさせずに、次々と血を噴き出すオブジェを作り出していった。
フードの集団から悲鳴があがる。
「なんだこのデカい女!?
「おいおい……おいおいおいおいッ! こんな奴がいたなんて聞いてないぞ!?」
「邪魔だ! 早く退けよ! 逃げねぇと殺されちまう!」
フードの集団の中で、ライズのあまりの強さに怯んだ者たちが、我先にと逃げ出し始めていた。
だが集団というのもあって、人混みの中で互いにもつれ合ってしまっている。
当然ライズは容赦しない。
向かって来ようが背を向けようが、彼女にとってフードの集団は、ただ斬って息の根を止める存在でしかなかった。
「どうしたらお前ら!? アタシ一人になにビビってんだよ! 戦おうが逃げようがなにをしようが……アタシらの仲間を
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