26
廃墟の前で手や首が宙を舞っていく。
それだけではない。
人間の上半身すら吹き飛び、返り血で染まった一人の女を月の光が照らす。
「あいつってこんなに強かったの?」
その光景を見たバンディーは、ライズの鬼神のごとき強さに驚きを隠せずにいた。
彼女はライズと決闘したときからその強さを知っていたつもりだったが、そのときとは比べ物にならない凄まじさに、本当に同じ人物なのかと思うしかなかった。
まさに無双。
三十人以上はいたフードの集団を蹴散らしていくライズの背中を見たバンディーは、これならばなんとか脱出できると、ティアに声をかける。
「よし、ティア! アタイらも続くよ! 敵はまだ増えるかもしれないからね! ライズが開けた包囲の穴から、アタイらも出るんだ!」
バンディーはティアの背中をバシッと叩くと、自前の金髪をまとめて結んだ。
それから彼女は詠唱を始め、その手から魔法陣が現れて周囲に炎を放っていく。
ティアは放心状態に近かったが、ひたすら敵を斬り殺していくライズと、炎の壁を作って飛び出していったバンディーの姿に意識を取り戻し、彼女たちの後に続いた。
腰から剣を抜いて、二人の後を追いかける。
夜の城下町が大混戦の戦場へと変わっていく。
それからバンディーの予想通り。
敵の応援が到着した。
すでにかなりの数の敵を倒していたが、ここでさらに増えられては逃げることも難しいと思われたが――。
「はいはーい。あんたたち、よかったら乗ってくかい?」
いきなり狭い道に馬車が現れ、
こんな緊迫した状況とは思えない軽い調子で、ライズたちに早く馬車に乗り込むようにと笑いかけてくる。
渡りに船とはこのことだと、まずはバンディーが馬車に飛び乗り、手を伸ばしてティアを引っ張り上げた。
「あとはあんただけだよ、ライズ! 早くこっちに来いって!」
バンディーが声を張り上げたが、ライズには聞こえていないのか?
現れた敵の増援に、彼女はたった一人で突っ込んでいった。
鬼の形相で剣を振り回すライズは、雄たけびをあげながら、ただ敵を斬り殺していく。
その様子は、まるで神か悪魔にでも操られているような――完全なバーサク状態だった。
バンディーは攻撃のみを繰り返す狂戦士と化したライズに向かって、何度も声を張りあげたが、やはり反応はなかった。
「くッ!? どうしちゃったの、あいつ! いくら強いっていってもこの数を相手できるわけないの!」
「元々感情的な子だったけど、仲間がやられて我を忘れちゃったんだね……。にしても、敵の数は増えてきてるし、このままじゃちょっと不味いよ……」
バンディーとポムグラが苦悶の表情になると、ティアは馬車から身を乗り出した。
一体なにをする気だとバンディーとポムグラが止めたが、彼女はライズのもとへ飛び出していってしまう。
「ポムグラさんは馬車をこちらに走らせて! バンディーは敵の牽制をお願い! 私とライズは必ず飛び乗るから!」
声を張り上げたティア。
ポムグラは呆れながらも馬車を操作し、バンディーも荷台で位置取りをして詠唱を始める。
「ライズ! ライズ! ここは一度引くわよ! このままじゃあなたまでやられてしまうわ!」
「うおぉぉぉッ!」
ティアの声でもライズは止まらない。
すでに怯んでいる敵を追いかけ、剣を振り続けていた。
しかし、それでもティアは言葉をかける。
「お願いライズ! 殺された皆のためにも……なにより私のためにも……あなたはこんなところで死んだらダメェェェッ!」
血まみれとなった町中に、ティアの悲痛な叫びが響き渡った。
そんな彼女の叫びが、それまで目の色を失っていたライズの瞳を元に戻す。
「みんなのため……ティアのため……」
「そうよライズ! 今馬車が来るから一緒に飛び乗って!」
ティアはライズの手を強引に取り、背後から向かって来ていた馬車へと飛び乗ろうした。
なんとか荷台に掴んだ彼女の手とライズの体を、バンディーが力任せに引き上げる。
「おいライズ! アタイじゃいつまでも掴んでらんないよ! さっさと自分で上がって来な!」
「そうだよな……。バンディーはひ弱だもんな」
「減らず口を言ってる暇があるならさっさと上がりな! じゃないと、ティア王女もあんたも落ちるよ!」
「落ちてたまるか! アタシもティアももう誰も死なせねぇよ!」
ライズは掴まれていたティアの手を強引に振って、彼女を荷台へと放り込む。
それから自分も荷台へと上がり、二人はなんとか馬車に乗り込むことに成功する。
それを確認したポムグラは、馬車の速度を上げて敵を振り切る。
狭い道で前に立って止めようとするフードの集団を吹き飛ばして、大通りへと走らせた。
「それで、とりあえずどこへ行こうか? ティア王女の屋敷か? または王宮へ逃げ込むか? 早く決めておくれよ」
ポムグラにうながされ、バンディーとライズがティアのほうを見た。
ティアは息を切らしながらも、この状況はどうすれば最善なのかを必死で考えたが――。
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