12

酒場の外に出ると、ライズはすっかり囲まれていた。


相手は八人いて、その中から一人の男が脅し文句を言ってくる。


自分たちが誰かわかっていて喧嘩を売っているのかと、いかにもなガラの悪い男たち全員が、同じことを言いたそうだった。


ありきたりな台詞だとライズが思わず笑ってしまうと、男たちの顔は険しくなった。


そんな彼らにライズは言う。


「あん? そんなことは知らねぇよ。ただお前らが騒いでると、せっかくのメシが不味くなるって言ってんだ」


男たちが一斉に剣を抜く。


対するライズも背負っていた大剣を手に取り、手をクイクイと招くように動かして挑戦的な態度を取った。


そして、次の瞬間。


男たちはライズへと斬りかかった。


同時に三人の剣が襲いかかったが、ライズは一振りで三人を吹き飛ばし、腰から倒れた男たちを見下ろして笑う。


「なんだよ? もうビビってんのか? こんなんじゃ準備運動にもなりゃしねぇ。こっちはもっと暴れてぇのによ。もうちょっとばかり頑張って、アタシを楽しませてくれや」


ライズの剣を受けて理解したのか。


男たちは顔では威嚇しつつも、誰も彼女へ斬りかかろうとはしなくなった。


対するライズがチッと舌打ちをすると、この騒ぎに気がついた住民たちが集まってきていた。


「お前ら、なにやってんだ!? 町で騒ぎを起こすなって、あれほど言っておいただろ!?」


集まってきた住民たちの間をすり抜けて、男たちの仲間を思われる人物が現れた。


顎に髭を生やした大男の登場に、ガラの悪い男たちの表情に安堵の色が浮かぶ。


ガラの悪い男たちは現れた髭の大男に説明をしていた。


このデカい女が突っかかってきたのだと、表に出ろと喧嘩を売ってきたのだと。


話を聞いた髭の大男は、ライズのほうへと体を向けると、ゆっくりとその口を開く。


「なあ、デカい姉ちゃん。こいつらがうるさかったのは悪かったが、なにもここまでの騒ぎにする必要はなかったんじゃねぇか?」


「お前がそいつらの面倒みてる奴か? なら、よく言って聞かせろよ。バカ騒ぎするなら他の客のことも考えろってな」


ライズはそう言いながら大剣を構えた。


じりじりと距離を詰めて、その態度は、まるでお前が責任を取れとでも剣で語っているのかようだ。


髭の大男もそんなライズに応じてか、すぐに表情を真剣なものへと変えて身構える。


「こっちは詫びてんだぜ。それでもやろうってのか」


「いいから来いよ、おっさん。ちょうどこっちは誰でもいいから暴れたかったんだ」


「どこの狂犬だよ、オメェ。ったく、面倒なことになりやがった……」


髭の大男と向き合ったライズ。


人が集まっている中で、二人の緊張感が高まっていく。


そして距離が縮まると、先に仕掛けたのはライズだった。


鉄の塊のような大剣が髭の大男へ振られ、その巨体がたった一撃で吹き飛ばされた。


髭の大男は立ち上がって再び剣を構える。


しかし、遅い。


ライズの攻撃は大男が立ち上がる前から始まっている。


大剣が脳天へと振り落とされたが、大男は左腕と剣を支えながらなんとか受け止め、呻きながらライズに声をかける。


「くッ!? 女のくせになんて重たい剣だ!? なにもんだよ、オメェ!?」


「アタシ? アタシは傭兵だよ。今は王女さまの護衛でこの町に来てるってだけだ」


「王女だと!? くッ!? まさかオレらを捕まえに来たのか!?」


髭の大男は、声を張り上げながらライズの大剣を振り払った。


なんとか反撃に出ようと前に出る。


大人の背丈を超える大剣なら、間合いを縮めればこちらが有利だと、小回りが利かない大剣の弱点を突こうとした。


だが、そんなことは予想されていた。


ライズは近づいてきた大男の腹を膝蹴りで打ち抜き、痛みで屈んだ相手の顔へ大剣の持ち手の部分で殴りつけた。


その一撃で意識を失った大男を見下ろし、ライズは唾を吐きかける。


「なにをわけわかんねぇこと言ってんだ? さっき言っただろ? アタシは誰でもいいから暴れたかったってよ」


倒れた大男にガラの悪い男たちが駆け寄ってきたが、彼らはライズを睨みつけながらも、誰も彼女に手を出そうとはしなかった。


大男が敗れたことで戦意がそがれたのだろう。


そんな彼らを見たライズは、不満そうな顔をすると大剣を背に収めた。


「お前ら弱いくせにイキがってんじゃねぇぞ。次に見かけたらこの程度じゃすまねぇからな」


捨て台詞を吐いて酒場へ戻ろうとするライズ。


彼女はこれで静かに魚料理とエールを楽しめると思ったが、騒ぎを聞いて駆け付けた警備兵たちが彼女を囲んだ。


警備兵たちは訊きたいことがあると言って、ライズの役所まで同行を願った。


「ったく、こっちはメシと酒を楽しみたかっただけなのにぃ……」


ライズはこの場で警備兵たちを倒して逃げることも考えたが、そうなると雇い主であるティアに迷惑がかかると思い、渋々ついて行くことにした。


その前に、唖然としている店員の娘を見つけると、ライズは彼女に声をかけた。


「よう。逆に騒がしくしちまって悪かったな。おすすめの魚料理とエール、最高に美味かったぜ。次は連れと来るからな」

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