11

ポムグラが馬車を置く場所を見つけ、宿屋へと戻ってきた後。


ティアは、この町の役所へ向かうと言って宿屋を出ていった。


ライズも彼女と一緒に行こうとしたのだが、ようやく目的地に着いたのだからゆっくりするといいと言われ、残ることに。


「なんだよ、それ……。勝手にゆっくりしてろってよぉ。これじゃ一体なんのための護衛だよぉ……」


「まあまあ、ティア王女なりに、あんたに羽を伸ばしてほしいのさ」


「ポムグラさんはどうするんだよ? 帰りもアタシらを送ってくれるって話だけど、その間はなにすんだ?」


一方ポムグラは、町の市場に行って馬の餌を買いに行くと言う。


この長旅の間ずっと荷馬車を引き続け、さらに食べるものも干し草だけで頑張ってくれたのを、彼女なりに労ってあげたいようだ。


「馬って草を食わせておけばいいんじゃないのか? まさか、肉は食わねぇよな?」


「さすがに肉は食べないわね。基本的には干し草だけど。でもリンゴやバナナ、それとオレンジにパイナップルとか。あとハチミツも大好きね」


「甘いのばっかじゃねぇか。へー、馬が果実を好きなんて知らなかったな」


感心するライズを置いて、ポムグラは宿屋を去っていった。


夕食の時間までには戻るので、何かあったら馬車置き場の側にある馬小屋にいる、場所は宿屋の人に聞けばわかると。


一人残されたライズは、特にすることもないので、自分の部屋へと戻って休むことにした。


中へと入り、ベットに横になる。


外からは道端で遊んでいる子どもたちの声や、鳥の鳴き声が聞こえていた。


ライズは、両目をつぶって大の字になってみたが、なんだかすることがなさ過ぎて逆に鬱々うつうつとしてきた。


物心ついてから、これまでずっと一人で旅してきたのに。


こんな気持ちになったのは初めてだった。


「アタシって……こんなに寂しがりだったっけ……?」


ふさぎ込んでいくのに耐えられなくなったライズは、ベットから飛び起きて自分の大剣を背負い、宿屋を出ていった。


彼女は気分を変えたくて、散歩がてらどこかの酒場でワインでも飲もうと思ったのだ。


海を眺めながら通りに出て、適当に店を探す。


見慣れた樽の看板に、ワイン専門の酒場なのか葡萄ぶどうの看板の店もいくつかあった。


ライズは、どの店も昼から盛り上がっていそうだったので、一番近くにあった酒場に入ることにする。


「いらっしゃいませ」


店員の娘の愛想のいい笑みがライズはに向けられた。


混んでいるのか。


店内にあったテーブル席は埋まっており、カウンター席しか空いていないと言われ、ライズはそれでも構わないと答え、注文する。


「じゃあ、肉とワインを適当に」


「ねえ、剣士のお姉さん。あなた、ハーバータウンに来たの初めてでしょう?」


店員の娘は訊ねると、ライズに話を始めた。


ハーバータウンは港町で漁業も盛んだ。


せっかくそんな町に来たのだから、名物の魚料理を食べてみてはどうかと。


「でもなぁ。魚料理を見るとなんか悲しくなるし」


「他の町じゃそんなわけのわからない価値観があるの? いいから食べてみて。サービスしてあげるから。あとお酒はワインよりエールのほうがいいよ」


店員の娘に強引にメニューを決められ、ライズは呆れながらも受け入れた。


少し前の自分には考えられないなと自嘲し、あまり好きではない魚料理とエールを楽しむことにする。


これもあの王女さまの影響かもしれない。


ライズはそんなことを思いながら、早々にやっていた魚料理とエールを味わう。


まずはエールを喉で楽しみ、次に魚料理を味わう。


サーモンのソテーを初めて食べたライズだったが、意外にもその味のとりこになった。


肉と同じくらい美味いと使っていたソースから感じる白ワインや香辛料に、さらに食欲をそそられていた。


「うーん、魚……。食わず嫌いだったのかも……。晩飯のときにティアにもこの魚料理のうまさを教えてやろうっと」


これまでイメージで避けてきた食材とお酒を楽しめたライズは、上機嫌で食事をしていると、テーブル席のほうが騒がしくなっていた。


振り返って見てみると、どうやらとある客の集団が、他の客への迷惑を考えずに大騒ぎしているようだ。


店員の娘も何度も声をかけて注意しているようだったが、荒っぽそうな連中は酒も入っているのもあって気が大きくなっているようで、自分たちも客だぞと息巻いている。


その様子を見たライズは、席から立ち上がると、店員の娘に声をかけた。


これからちょっとした騒動が起きるが、やはり店の外でやったほうがいいかと。


「ちょっと剣士お姉さん!? やめときなよ! あいつらは最近ジニアスクラフト王国内を騒がせている盗賊団の連中らしいから、関わったら何されるかわかんないよ!」


ライズは心配してくれた店員の娘に笑みを返すと、その盗賊団らがいるテーブルへと向かった。


そして、その前で足を止めると、彼らに言う。


「とりあえず表に出ようか。なぁに、すぐ終わるからよぉ」


ライズの言葉を聞いた男たちは、一斉に席から立ち上がると、何事も言わずに店の外へ出ていった。


素直に応じた彼らを見たライズは、その口角を上げる。


このところ思いっきり暴れていなかったと。

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