13
――警備兵に事情を説明するために、役所へと連れて行かれたライズ。
事の顛末を伝えたことにより、特にお咎めはなかったが、以後気をつけるようにと注意を受けた。
騒ぎを見ていた人たちの証言もあって、内容的に酒場の喧嘩ということになったのが良かったのか悪かったのか。
ライズは不満ながらも、何事もなく役所から出られた。
「うるせぇ連中を黙らせただけだってのに、なんでアタシが怒られなきゃいけねぇんだよ……」
ブツブツと文句を言いながらライズは宿屋へと戻ると、偶然その帰り道でティアを見つけた。
そういえば役所へ行くと言っていたので、ばったり出会うのも当然かと、ライズは彼女に駆け寄った
声をかけられて驚いたティアは、どうしてこんなところにいるのかとライズに訊ねた。
ライズは、酒場での出来事をすべてティアに話すと、彼女は少し不機嫌そうな顔になる。
「なに怒ってんだよ? たかがチンピラとケンカしたくらいで」
「意味のない喧嘩をしたなんて聞いたら、こうもなるわよ」
「はは、なに言ってんだよ。ケンカなんて意味があるもんじゃねぇだろ。相手が気に入らないから黙らせる。それがすべてだ」
そう言い切ったライズを、ティアは睨みつけた。
彼女の表情はもはや不機嫌など通り越して、明らかに怒っている顔になっていた。
そのあまりの迫力に、思わず怯んでしまったライズへ、ティアは言う。
「そんなことない。少なくとも、私があなたと喧嘩したことには意味があった」
見つめられながら言われたライズは、何も言い返すことができなかった。
だが、それでも意味のある喧嘩とはなんなのか、彼女は理解できない。
ティアが言っていることが正しいとも間違っているとも思えない。
わかりやすく肩を落とすライズを見たティアは、言いすぎたと謝ると、二人は宿屋へと戻った。
戻ると宿屋の前にポムグラが立っており、少し早いが夕食を食べに行こうと声をかけてきた。
ならば良い店があるとライズが答え、彼女たちは昼間にライズが入った酒場へ向かうことにする。
「いらっしゃいませ! あ、大きなお姉さん!? また来てくれてんだ!」
店員の娘がライズに気がつき、彼女たちは奥のテーブルに通された。
それから注文を受けると、ポムグラが何がおすすめかを訊ね、ライズが昼間に食べた港町ハーバータウンの名物である魚料理とエールを頼むことにする。
注文後、料理はすぐにやってきた。
魚料理をつまみながらエールを飲むポムグラが、見るからに元気のないライズとティアに何があったのかを訊き、事情を知る。
「そいつは災難だったね。まあ、ライズのしたことは良いことだとはワタシも思うよ」
フェイスベールで顔を隠しながら、器用に魚料理を食べるポムグラは、ライズのしたことを褒めた。
店の迷惑だと思って騒いでいた男たちを注意したのは、素晴らしいことだと。
ティアもそれはその通りだと思うと言い、ライズの表情が明るいものへと変わった。
「だけど、手を出したのはよくないね。話を聞いてると、それなりに分別のある連中だったみたいだし。ちょっと言ってやればやめてくれたんじゃないかね」
ポムグラの言葉を聞き、笑みを浮かべていたライズが呻いた。
一方でティアのほうは、うんうんとポムグラの言葉に頷いている。
「それに、あんたらの間に入ってきた男もいたんだろう? そこでそいつと喧嘩するのはいただけないよ」
最初は褒められ、最終的に注意されたライズは、変わらず何も言うことができず、黙ってエールを飲むしかなかった。
しかし、彼女が生きてきた世界では、暴力は当たり前のことだった。
頼りのない傭兵の世界では、腕っぷしだけがものを言う。
言葉での説得など意味がない。
(意味がない……。いや、待てよ? もしかしてティアの言う意味のあるケンカってのは……)
ライズはエールを飲み干し、アルコールでぼやけた頭で考え、何か答えが出そうになったとき。
突然、背後に人が立つ気配を感じた。
「見つけたよ。あんただな、スヴェインさんをやった女は」
ライズが振り返ると、そこには女が立っていた。
袖のない上着にマントを羽織り、グリーンのハーレムパンツに足元はブーツ。
金髪で口元がやや尖っており、鋭い目つきをしている女だ。
スリムで筋肉質な体型なのは、そのマントの下の体を見ればわかる。
身長は168cmで女にしては高いほうだが、179cmはあるライズに比べれば小さい。
「あん? 誰だよ、お前? スヴェインなんて知らねぇぞ、アタシは」
「しらばっくれてんじゃないよ。あんたみたいなデカい女、そうそういるもんじゃないんだから」
「人違いだってのがわからねぇのか? こっちは連れとメシ食ってんだ。厄介事は勘弁してくれよ」
ライズは現れた金髪の女からテーブルへと体を向けると、まるで犬か猫で追い払うように手を振った。
普段なら因縁をつけてきたと、理由もわからずとも相手をするのだが。
役所からの雰囲気でそれは不味いと、彼女なりに考えての配慮だった。
ライズが女を無視をすると、彼女とテーブルで向き合って座っているティアとポムグラが、両目を見開いている。
なぜそんな顔をしているのかとライズが思った瞬間、彼女たちが座っていたテーブルが炎に包まれた。
そして、一瞬で料理も皿もテーブルも灰になって消えていく。
「おいコラ、シカトしてんじゃないよ」
ライズが再び振り返ると、金髪の女の右手から魔法陣が現れていた。
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