14

「アタイはバンディー。義賊をやってるもんだ。あんたがメシを食い終わるまで待っててやるから、終わったら海の側にある広場に来な」


バンディーと名乗った女はそう言うと、店員の娘のもとへと向かった。


そして彼女は、金貨を何枚か店員の娘に渡すと、店の出入り口へと歩いていった。


「いきなり悪かったね。燃やしちまったテーブルやら食器はこいつで弁償するよ。みんなもメシの最中に騒がしくしてごめんね」


店員の娘や他の客が言葉を失っている中、バンディーは捨て台詞を吐いて酒場から去っていった。


義賊と女が言っていたことで、ライズは思い出す。


この国、ジニアスクラフト王国へ入ったばかりのときに襲ってきた盗賊たちのことを。


魔法を使えることは魔法国家であるジニアスクラフト王国ではめずらしくないが、盗賊で魔法を使う者となると連中と関係があるのではと、ライズは思っていた。


一方でティアもバンディーの言葉に引っかかったのか、ライズに訊ねてきた。


「ねえ、ライズ。今の人と何があったの?」


「ティア王女ったら、そんなの決まってるでしょ。きっと昼間にライズが倒したっていう連中が、さっきの子の仲間だったんだよ」


ポムグラが予想を口にしたが、それ以外にあり得ないことは、誰の目にも明白だった。


ここ数ヶ月の間、ライズはティアと共に国内を回っていたが、その間に揉め事など一切起こしていない。


あるとすれば、今ポムグラが言った一件だけだ。


そうなると、さっきのバンディーという女は仲間の仇討ちに来たといったところか。


ならばちょうどいいと、ライズの口角が上がる。


「それなら相手してやろうかな。このまま無視したんじゃ、礼儀に反するだろうしよぉ」


「ちょっとライズ!? まさかあなた、あの人も戦うつもりなの!?」


声を張り上げたティアに、ライズは言い返した。


あのバンディーという女は義賊だと名乗った。


詳しくは知らないが、確かティアが視察のときから調べている盗賊団も義賊だったはずだ。


ならばあの女を叩きのめして、何か情報を引き出してやると、ライズは意気揚々と口にした。


「さっきの女が単なる町娘だったら、アタシも詫びの一つでも入れてやるけどよぉ。義賊だってんなら話は別だ。なによりティアの役に立つだろ?」


ティアがうぐぐと呻き、何も言えなくなっていると、ポムグラはクスリと笑って会話に入ってくる。


「おやおや。ライズ、あんたって意外と頭いいんだね。義賊がらみとなれば、ティア王女も止めるに止められないもんね。それでどうなんだい? さっきの子、ワタシから見るとかなり強そうだったけど」


「ああ、かなりやるんじゃねぇかな」


「ありゃ、ずいぶんと他人事だね。まあ、実際にあんたが戦っているところを見たことないけど、あんたが負けるところを想像できないのは確かだけどね」


「なんしてもまずはメシだ。腹が減ってはいくさはできぬってな。おい、店員の姉ちゃん! アタシらにまた同じものを頼むぜ!」


複雑そうな顔をしたティアと呆れているポムグラを放って、ライズは店員の娘に注文した。


それから食事を終え、ライズはバンディーに言われた場所へと向かった。


幸いなことに彼女が指定したところは、ライズたちが泊まる宿屋から近かったというのもあって迷わずに行くことができた。


そこはバンディーが言ったように、目の前に海が見える広場だった。


夜の海は真っ暗だったが、広場には松明が飾られており、おそらくは彼女が自分の魔法でつけたものだと思われる。


「よう、待たせたな。こいつはティアからだ」


バンディーを見つけたライズは、持っていた袋を彼女へと放り投げた。


受け取ったバンディーが中身を確認すると、そこにはリンゴや葡萄ぶどうなどの果実が詰まっている。


「なにこれ? 毒入りの食いもんでも食わせてアタイを殺そうっての?」


「んなせこいことするかよ。言っただろう? そいつは王女さまから贈り物だって」


「そっか……。あんたと一緒にいた女に見覚えがあると思ったけど、王女さまだったの」


バンディーは袋をドサッと砂浜に放り、背負っていた剣を手に取った。


それは刀身の短いショートソード。


ライズの持つ大剣とは、長さに倍以上の差がある武器だった。


「あんたがなにもんでなんで王女といるかは知らないけど、スヴェインさんの借りは返させてもらう」


「だからスヴェインって誰だよ? ポムグラさんの予想じゃ、昼間アタシがぶっ倒した連中の誰かだろうってことらしいけどさ」


「髭を生やした大男だよ」


「あぁ、あれか。割って入ってきたのに大したことなかったおっさんね」


「思い出したなら、さっさとその鉄の塊を抜きなさい。じゃないと、こっちから斬りかかれないじゃないの」


バンディーが静かに構える。


ライズはわざわざこちらが剣を握るのを待つ彼女を見て、馬鹿だと思っていた。


騎士でもないのに正々堂々と戦おうなど、この女は本当に盗賊かと、つい呆れてしまう。


「それとも、それだけ自信が腕にあるってことか……面白れぇ……」


「さっきからなにをブツブツ言ってんの?」


「あん? なんでもねぇよ。それじゃ、始めようか」

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