15
ライズとバンディーが向き合う。
互いに大剣、ショートソードを向け合い、夜の海を前に波の音だけが聞こえている。
「始める前に、あんたに訊きたいことがいくつかある」
バンディーは鋭い視線を向けたままライズに声をかけた。
問われたライズは、殺気を放ちながら問答をしようとする彼女を見て、器用な奴だと笑う。
言葉を交わすのもすら嫌なのは、その凄まじいまでの威圧感から伝わってくる。
殺意を覚える相手に訊きたいことなど、一体何があるというのか。
ライズは普段なら喋る時間など与えずに斬りかかるところだったが、バンディーという女に興味を持っていた。
そもそも今どきやられた仲間の借りを返すなどという義理堅い行為や、この勝負に至るまでの芝居がかった態度などすべてが、これまでのライズが知る盗賊とはかけ離れている。
仲間をやられてムカつくなら、さっき酒場で声などかけずに後ろから刺し殺せばいいのだ。
それを卑怯などというのは貴族や騎士のような身分の高い連中であり、自分たちのような人間にとっては勝つための手段でしかない。
ところが目の前にいるバンディーは、当然、身分も高そうではなく、自分とさほど変わらない――ろくな教育も受けていないように見えるゴロツキなのだが。
この金髪で緑の瞳をした女は、気高さ――いや、身分の高い者とは違う、どこか人情味がある。
それは暴力だけがすべてである傭兵家業、または盗賊家業などの仕事においては、致命的な弱点になるものだ。
多くの繋がりは金でしかない。
状況によっては雇い主すら殺し、自分が明日を生きるためにどんな卑怯な手を使ってでも生き残る。
そういう世界のはずだ。
(あり得ないことなんだ……。だからアタシは、
自分とティアとの関係は特別だ。
ライズはそんなことを考えながら、またも内心が口から漏れていた。
「またなんかブツブツ言ってんの? あんたって独り言が好きなのね。正直、気持ち悪い」
「別に好きじゃねぇし! それよりもなんだよ、お前の訊きたいことってのは!?」
ライズが声を張り上げると、バンディーは言った。
どうしてスヴェインをあそこまで痛めつけたのかと。
ライズほどの実力者ならば、怪我などさせずにその場を収めることができただろうと。
「事情はすべて聞いてる。元々はウチの連中が酒場でうるさかったから、あんたが注意したって」
「ああ、その通りだ。人がメシ食ってるときにうるさかったから黙らせた」
「それはこっちが悪かったと思う。でも、スヴェインさんやあいつらもちょっと乱暴なところはあるけど、根は良い連中なんだよ」
「だからなんだってんだよ。いい奴だからどうだってんだ、あん?」
「みんなアタイの仲間だ」
力強く言ったバンディーに、ライズは思わずたじろいた。
一点の曇りもない彼女の目が松明の光に当てられ、まるで宝石――エメラルドのような輝きを放っているように感じる。
「なあ、あんた。名前は?」
「あん? ライズだけど」
「じゃあ、ライズ。あんた、暴れていて楽しい?」
問われたライズは、口角を上げながらも引きつった笑みで答える。
「ああ、うるせぇ連中をぶっ飛ばせば過ごしやすくなるだろ」
「本当に過ごしやすくなったの? なってるわけないよね。警備の兵に連れていかれて、さっきは店で連れと揉めてたみたいだし」
「ぬ、盗み聞きとは盗賊らしいことすんじゃねぇかよ」
顔を引きつらせたままのライズ。
バンディーは足を動かし、彼女との距離を縮める。
ゆっくりと亀の歩みで。
「どうせ暴れるなら意味のあることをしな。そんだけ強いのに、もったいないよ」
「さっきからうっせぇんだよ! ティアみてぇなこと言いやがって……あんまアタシに頭使わすんじゃねぇ!」
先に仕掛けたのはライズだった。
いや、仕掛けたというよりは堪らず手が出たといった感じだ。
大人の背丈をも超える大剣が振り落とされ、バンディーはその一撃をショートソード盾にして腕で受け止める。
それから力で大剣を押し返すと彼女は一気に踏み込み、ライズと同じようにショートソードを振り落とした。
「くッ!? 細いくせに結構力あんじゃねぇの。でも、アタシ相手に打ち合いがいつまで続けられるかな!」
ライズは想像していた以上のバンディーの一撃の重さに驚きながらも、余裕で彼女の剣を打ち返した。
それから言葉にした通り、二人の打ち合いが始まる。
ライズの身長は179cmで体重は66kg。
対するバンディーは168cmに58kgと、その体格差は誰が見ても明らかだった。
それは戦いにも
こんなことはわかりきっている。
体格も使っている武器も、どう見ててもライズのほうが大きく頑丈だ。
それなのにどうしてこんな無謀な打ち合いを続ける?
ライズはバンディーの意図がまるでわからなかった。
彼女はどう見ても力に任せて相手を倒すようなタイプではない。
そんなことは、ライズがバンディーを見たときにわかっていた。
なのになぜ?
大剣を受けて吹き飛ばされ始めたバンディーに、ライズは訊く。
「おい、お前。舐めてんのかアタシを。どうしてそんな戦い方をする?」
「アタイがどう戦おうが、あんたに関係ないでしょ!」
バンディーが返事をしながら斬りかかる。
しかし、すでにライズの剛剣を受け続けた彼女は、足にきていた。
それだけではない。
手も痺れて、剣を握っているのさえ厳しいはずだ。
だが、それでもバンディーは、愚直にライズと打ち合いを続けた。
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