16

次第にライズの剣に耐えられなくなったバンディーは、なんとか受けながらも吹き飛び、砂浜に転がる。


そんな一方的な戦いが続く。


砂を噛み、全身がアザだらけになりながらもすぐに立ち上がり、何度倒されてもバンディーはライズとの打ち合いにこだわる。


けして自分のスタイルに合ってない彼女の戦い方だったが。


もしこれが相手がライズでなければ、そのあまりの執念にいつか打ち勝っていたかもしれない。


いや、もはやライズでもバンディーの凄みに気圧されてしまっていた。


もう何度も終わりだという一撃を打っても、まるで不死者のように向ってくる彼女に。


「いい加減にしろ、このゾンビ女が! 大体なんで魔法を使わねぇんだ!? 店でやったときみてぇに炎を出せよ!」


木こりが大木を切り落とすような――人間の上半身と下半身を真っ二つにする一撃が振るわれたが、それでもバンディーは剣で受け、吹き飛んでは起き上がってライズと対峙する。


反撃も止めない。


すでに満身創痍ながらも、バンディーの閃光のような剣撃は一切鈍ることがなかった。


「くッ!? まだまだはえぇな、クソが!? そんだけ鋭く打てるんなら、もっとお前に合った戦法があるだろ!? スピードではお前のほうがアタシより上なんだからよ!」


ライズは愚かなバンディーに文句を言いつつも、手加減などしていない。


打ち合いのままならば勝てると確信していた。


しかし夜の海の広場に、金属同士がぶつかる音が鳴り響いてから数十分後――。


ついにライズが片膝をついた。


バンディーの振る剣がかすめ始め、傷を負い始めて彼女も体力的に限界が来ていた。


「偉そうなこと言ってたくせに、足にきてんじゃなの?」


「うっせぇ。お前のほうがフラフラじゃねぇか」


態勢を整えて大剣を構えるライズ。


彼女の言ったように、バンディーのほうはすでに限界だ。


むしろ体格差があるライズと、よくこれまで打ち合い続けたと言える。


閃光のようだった鋭い刺突も鈍り、ライズを追い詰めつつももはや決定的な一撃など放てない。


「あんた強いよ……。でもね、そのままじゃいつか身を亡ぼす。アタイが断言してやる」


「また説教かよ。そんな状態で言っても説得力がねぇんだよ」


「バカはお互い様だよ。意味のない暴力なんてクソだ。暴れるだけならサルでもできる。あんたにだって大事なもんくらいあんだろ? 自分が気に入らないってだけで暴れ続けたら、いつかそいつを失っちまうよ」


「大事なもん……」


「おー考えてる考えてる」


「考えてねぇよ、バァーカ!」


真正面から互いの剣が交差した。


バンディーの剣がライズの大剣によって砕かれ、彼女は押し潰されるように沈む。


先に限界が来たのは、バンディーよりも彼女の使っていたショートソードだった。


砂浜に倒れたバンディーはもう動かない。


かすかに息はしているが、もう立ち上がることはない。


ライズは二度と自分に向かって来ないように、止めを刺そうと近づいた。


「頭がわりぃ女だ。結局、最後まで魔法も使わないで打ち合いやがって……。お前みてぇなガリガリがアタシに勝てるわけねぇだろうが……」


激しく息を切らし、ライズはバンディーを見下ろしながら口を開いた。


こんな戦い方をすれば当然の結果だと、侮辱するような言い回しで。


「うぅ……うぅ……うおぉぉぉッ!」


ライズは倒れたバンディーの前で跪き、言葉にできない気持ちを声にした。


いつものように止めを刺して終わりにすればいいのに、それができない。


なによりも、勝利したというのにこの敗北感はなんだ?


自分のほうが強いはずなのに。


一対一の真っ向勝負で勝ったというのに、全く相手を倒した気がしない。


傷を負ったとはいっても、こっちはもういつでもこの女を殺せる。


だがそれができず、意味のわからない挫折感が頭の中を駆け巡っている。


「くッ!? なんなんだよ!? お前もティアも、意味のあるケンカだとか暴力だとかよ! そんなもんあんのかよ! ケンカも暴力も気に入らねぇ奴をぶっ殺すためのもんだろ!? それで金もらって生きるのが、アタシらみてぇな人間じゃねぇのかよぉぉぉ!!」


結局ライズはバンディーに手を出すことができず、意識を失った彼女を担いで広場を出た。


満身創痍の体で宿へと戻り、泣きそうな顔でティアの部屋へ向かう。


ライズの姿と、彼女に担がれているバンディーを見たティアは、何も言わずに二人を部屋へと入れた。


バンディーをベッドに寝かせ、すぐに隣の部屋にいるポムグラに声をかけ、彼女の治療を始める。


部屋の端には、両膝を抱えてうずくまっているライズがいた。


ティアはそんなライズの傷の手当てもしようと近寄ると、彼女は声を震わせて言う。


「ティア……。アタシ……どうすればいい……?」


「あなたはどうしたいの?」


「よくわかんねぇ……。でも、なんか……スゲー悪いことした気がする……」


ティアは、両膝を抱えたまま言ったライズを抱きしめた。


できる限り優しく穏やかに。


「明日この人の仲間のところへ行きましょう。そこで、ちゃんと謝ればいいんじゃないかな」


「わかった……。ティアがそう言うなら、そうする……」

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