17

――次の日の朝。


バンディーはベッドから体を起こすと、目の前には二人の女が寄り添って眠っていた。


体の大きな女が、高貴な雰囲気を持つ女にすがるようにしている。


そんな二人の姿を見たバンディーは、それだけでライズとティアの関係をなんとなく察した。


「おはようさん、バンディー」


「あんたは……こいつらと一緒にいた……」


「ワタシはポムグラ。個人で馬車の御者と輸送をやってる。朝ごはん持ってきたけど、食べれるかい?」


ポムグラが部屋に入り、バンディーたちの分の朝食を持ってきた。


正直いって食欲はあまりなかったが、バンディーは食べることにする。


返事を聞いたポムグラは、彼女がいるベッドに腰を下ろし、パンと野菜スープを渡した。


「先に頂いたけど美味しいよ。ここのごはん。特にスープはなかなか」


ポムグラはバンディーに何も訊かなかった。


朝食の味や今日の天気など、世間話ばかりを彼女に振るだけだった。


勝負について訊かないのか?


バンディーは内心でそう思っていたが、話していてもポムグラからは昨夜のことは訊かれなかった。


気を遣っているようには見えない。


このフェイスベールで顔を隠している女は興味がないのだろうか?


いつまで経っても雑談をしてくるポムグラに、バンディーは自分が気を失った後のことを訊ねようとしたが――。


「うぅ……なんだ? もう朝メシかぁ……」


「いい匂い。ポムグラさんが持ってきてくれたの?」


互いに寄りかかって眠っていたライズとティアが目を覚ました。


二人は立ち上がると、ポムグラがベッドの上に置いた朝食に手を伸ばす。


ポムグラはそんな彼女たちを見て、顔と手くらい洗ってきたらどうだと呆れていた。


バンディーはさらによくわからなくなった。


彼女は、まるで昨夜の決闘などなかったかのような三人の振る舞いに、渡された朝食を食べるのも忘れてしまっている。


「ほら、呆けてないであんたも早く食べなよ。スープが冷めちまうよ」


ポムグラがそのことに気がつき、バンディーはようやく食事を口へと運ぶ。


自分は負けたんだよな?


なら、どうしてこんなところで食事をしているのだろう?


(しかも全部食っちゃってるし、アタイ……)


味がしないくらい舌に気が回らなかったが、ともかくそんな雰囲気のまま彼女たちは食事を終えた。


ポムグラが片付けると言って、皆の食器をまとめると、急にライズがバンディーに近づいてきた。


少し動けば触れてしまいそうな距離で、彼女は普段のヘラヘラした顔(でも目は笑っていない)ではなく、真剣な眼差しをバンディーへと向ける。


「昨日はごめん! じゃなかった!? あなたの仲間に手を出してすみませんでした! 全部アタシが悪かったです!」


ライズはバンディーを見つめたと思ったら、いきなり下がって深く頭を下げた。


謝られたバンディーは、いきなりのこと過ぎて頭がまるで追いつかない。


すると、頭を下げたままのライズのことを笑いながらティアが口を開く。


「謝る相手は彼女だけじゃないでしょう」


「そうだったな! なあ、今すぐお前の仲間のとこへ行ってアタシに謝らせてくれ!」


「ちょっと、ライズ。相手はケガしているんだから、もう少し静かに――」


「アタシもケガしてんだけど!?」


会話にティアが入ってくると、なぜか二人の言い争いが始まった。


それはまるで姉妹の喧嘩のようで、見ているほうが恥ずかしくなるくらい幼稚なものだった。


完全にバンディーのことは置いてけぼりだ。


ただ呆然とライズとティアの口喧嘩を見ているバンディー。


ポムグラがそんな彼女に声をかける。


「それで、ライズはあんたの仲間に謝りたいみたいだけど、どうするの?」


「もう……わけわかんない……。アタイがやられた後に、一体なにがどうなってこんな状況になってるんだよぉ……」


頭を抱えて悩み出すバンディーに、ポムグラは言葉を続けた。


これががバンディーが体を張った結果。


昨夜の決闘は、ライズの気持ちを変えるのに、十分な効果があったということだと。


「まあ、詳しいことは気にしなさんな。あの子も謝りに行くって言ってるし、今回のことはこれで勘弁してやってよ」


王女、傭兵、御者。


このくだけた雰囲気でいる三人は何者なのだろう。


身分も立場も違う彼女たちが、まるで家族のように一緒にいる。


ダメだ。


いくら考えてもわからない。


何か複雑な事情でもあるのか?


しかし、どうもそういう風には見えない。


バンディーは考え疲れると、なんだか笑えてきた。


勝負には負けたが、どうやら黒髪のデカい女は心から悪いことをしたと思っているようだ。


ならば、これで良しとしよう。


「なあ、あんた……ポムグラさんだっけ? 一つだけ教えて」


「なんだい? 今なら特別サービスでなんでも答えてあげるよ」


「こいつらって……なんなの?」


バンディーに訊ねられたポムグラは、上品に笑って答えた。


それは自分にもよくわからないと。


一緒にいる人間でもわからないものを、自分がわかるはずもないと思ったバンディーは、ポムグラと一緒にただ笑った。


理解をする必要などない。


揉め事は終わり、わだかまりはもう昨夜で消えたのだから。


この日からバンディーが所属する義賊団は、彼女を通じて、王女であるティアと強いつながりを持つことになるのだった。

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