18

――港町ハーバータウンの出来事から数日後。


ライズはティアと共に王都へと戻っていた。


一度城へと戻り、ジニアスクラフト王へと報告を済ませたティアは、王宮ではなく城下町にある屋敷で寝泊まりをしている。


もちろんライズも一緒だったが、なぜティアは城にある自分の部屋で休まないのか?


普通に考えたらおかしいが、ライズにはその理由がわかっている。


(そりゃ自分を見下してる連中とはいたくないよな……。いくら血のつながった家族だからって……)


魔法国家であるジニアスクラフト王国では、魔力を持たない者が差別される風潮がある。


それは、たとえ王族であっても同じであった。


代々王族の血を受け継ぐ者は、生まれたときから魔力が高いことが多い。


実際に、ティアの妹であるウィネス王女はたぐいまれな魔法の才に恵まれてこの世界に生まれてきた。


だがティアには、生まれたときから魔力がなかった。


その後もいくら努力しても魔力を宿すことなく、両親である王と王妃は彼女から距離を取るようになった。


さらには国に仕える貴族や騎士、侍女や兵までもティアのことを憐れんでいる。


そんな場所にいることは、針のむしろに座る思いだろう。


王もそんなティアに気を遣っているのか、何かにつけて城から出る用事を申しつけている。


ティアが剣や勉学に本格的にのめり込もうが止めもせず、かといって褒めもせず、我関せずといった態度でいる。


ある意味では、金と権力がありながら自由にさせてもらっていると言える。


それでもポムグラから聞いた話が、ライズの苛立ちを悪化させていた。


「王からするとティア王女の価値は、他国に嫁ぐことしかないからね……」


魔力がない王女を政略結婚の道具にできるのか?


王と王妃がティアのことで悩むのはそれくらいだと、ライズはポムグラから城の事情を聞いた。


ティア自身もそのことはわかっているとも聞き、ライズはなぜ国のために走り回っている彼女が、こんな目に遭わなければいけないのだと思っていた。


だが自分が苛立っている理由をティアに言うこともできず、ハーバータウンの帰りで聞いた話が、未だにライズの悩みの種になっていた。


「どうしたのライズ? 王都に帰ってきてからずっと変だけど?」


「べ、別になんでもねぇよ。それよりもバンディーたちが今日にでもこっちに来るんだっけか?」


港町での一件からバンディーら義賊団とつながりを持った彼女たちは、ライズの謝罪後に親密な関係になっていた。


もちろんライズのしたことを許せない団員もいたが、そこは彼女に倒された髭の大男スヴェインが間に入り、悪く思っていた者たちとも打ち解ける。


それはライズの心からの誠意と態度。


さらにはスヴェインの器の大きさのおかげだと言えるだろう。


「ええ。バンディーやスヴェインさんたちも協力してくれるって言ってくれたし。彼女たちの力を借りれば、今国内で起きてる問題が解決できると思うの」


今回バンディーら義賊団を王都に招待したのは、ティアが以前から調べていた事の真相を明らかにするためだった。


ティアは、バンディーたちと同じく義賊を名乗る組織のことを探っていた。


最初にバンディーが義賊と名乗ったときは、同じ組織の人間かとも思ったが、彼女たちと話しているうちに違うことに気がついた。


どうも別の義賊を名乗る連中がいることを知ったティアは、バンディーたちの協力を得ればその組織を捕まえられると思ったのだ。


ティアが追うその組織は、義賊とは名乗っていても身分の高い者以外からも金銭を盗み、そして命までも奪う。


前回の国内での視察で、民の一部からはその組織が熱狂的に支持をされていることをティアは知ったが、けして見過ごせることではない。


そんな組織が国内にいるというのに、どうして国が動かないのか。


ティアは父であるジニアスクラフト王に、組織のことを何度も報告したが、全く相手にしてもらえなかった。


それはまだ規模が小さく、大きな被害が出ていなかったからだった。


王からすれば、それは各町にいる警備兵たちに任せておけばいいの一点張りで、どこにでもいる盗賊の一団というくらいの感覚でしかない。


だが、ティアには猛烈な違和感があった。


それは身分に関係なく人を襲うこと。


一部の民から支持されていること、大きく分けてその二つだった。


組織の目的はなんなのか?


どうして王族、貴族以外に平民までも襲うのか?


もう少し情報があればわかるはずだと、ティアは自分なりに調査を続けていたが、広いジニアスクラフト王国を動き回る組織を相手に、彼女の一人ではできることも限られる。


しかし、今の彼女には仲間がいる。


ポムグラは以前から協力的で、新しい出会いはライズから始まり、バンディーやスヴェインら港町で出会った義賊団が味方だ。


できないことなどないと、ティアのこれまでの行動にもようやく光明が見え始めていた。


「なんか港町からずっと嬉しそうだな」


「すべてあなたのおかげよ、ライズ。あの酒場で偶然あなたと出会えて、本当によかったわ」


「い、いきなりなに言い出すんだよ!? ったく、お前のそういうとこ……ゼンゼン慣れねぇ」

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