19

その日の夜――。


バンディーら義賊団は王都の城下町へと入った。


彼女たちの道案内は、当然というべきかポムグラがやってくれた。


現在、ポムグラを先頭に町へと入ったバンディーたちは、町外れにあるティアの屋敷に来ている。


「久しぶりね、バンディー。それとスヴェインさんも。わざわざお越しいただいて、ありがとうございます」


屋敷内にある大広間へと入り、そこに用意した料理やワインなどを振舞うティア。


義賊団の代表者ともいうべき二人に挨拶をし、握手を交わしていた。


ティアがバンディーとスヴェインと挨拶を終えた後。


彼女の背後にいたライズは無言で二人に近づいてき、互いに笑みを交わしてハイタッチ。


バンディーが右手、スヴェインが左手と、それぞれライズの手をパチンと鳴り響かせた。


それからライズは、料理とワインを楽しんでいるポムグラや義賊団のところへと向かい、大声を出しながら彼女たちと食事を始める。


「おい、ライズ。お前、こんなイイとこ住んでんのかよ!?」


「うらやましいなぁ。つーかお前みてぇなのが一体どこで王女さまと知り合ったんだ!?」


「奇跡だぞ、それ。いやマジで」


義賊団はライズに対して気さくに言葉を返していた。


一方でポムグラはすでにワインを一本を空けて、顔を真っ赤にしながら新しいびんふたを開け始めている。


そんな光景を横目で見て、ティアの顔に笑みがこぼれていた。


今この屋敷の中には、確かな平和がある。


身分の差も魔法による差別も何もない、本当の平和が。


互いに憎み合っていたはずでも、誤解さえ解けばこうやって笑顔を向け合えるのだと、ティアは胸が熱くなるのを感じていた。


「それでティア王女。もてなしてもらっておいてなんなんだが、早速、話をしたいんだが」


スヴェインに声をかけられ、ティアは慌てて緩んでいた顔を引きしめた。


バンディーはそんな彼女を見ては、腹を抱えて意地悪く笑っている。


「コホン。では、お話を始めさせていただきますね、スヴェインさん」


「ちょっとちょっと、王女さま。話をすんならあいつも呼んだほうがいいじゃないの?」


バンディーは、義賊団とワインを飲んで騒いでいるライズに親指を突き出した。


だが、ティアは穏やかな顔で首を左右に振ると、呼ぶ必要はないと答えた。


彼女には後で自分から話しておく。


だから今は久しぶりに会えた義賊団の面々と楽しんでもらいたいと、ティアはニッコリと微笑みながら言った。


「あっ、でもそれだとバンディーとスヴェインさんには悪いですね」


「いや構わないよ、アタイらは。別に今日が会える最後の日ってわけじゃないしね。ねえ、スヴェインさん」


バンディー軽い調子でスヴェインに声をかけると、彼もまた口角を上げながら頷いた。


それから騒がしい大広間で、ティアたちの話し合いが始まる。


「以前に港町でも協力をお願いしましたが。スヴェインさんたちに王都にまで来てもらったのは、ある組織を捕らえるためです」


「ああ、それはなんとなくわかってた。そうなると、その義賊を名乗る組織が王都いるってことなのか?」


スヴェインが訊ねると、ティアはコクッと頷く。


彼女が独自で調べていたことによると、義賊団を名乗る組織には一定の動きがみられるようだった。


国内全土で活動している組織だが、その痕跡からティアが推測するに、どうやら奪った金品などはジニアスクラフト王国の首都――つまり王都に運び込まれている。


まさに灯台下暗し。


誰も国で一番警戒の目が厳しい王都に、犯罪組織の隠れ家があるとは考えない。


しかし、ここまで説明しておいて、急にティアの表情が曇る。


「あくま憶測の域は出ていないものですけど……。可能性はあると思って、お声をかけさせてもら――」


「そんな顔しないでよ、王女さま。あんたがいるって言うなら、アタイらはそれを手伝うだけさ」


「バンディー……」


言葉を遮って声をかけてきたバンディー。


ティアはまさかそんなことを言われるとは思わず、息を飲んでしまった。


バンディーの名を口にした後、上手く声が出せない。


それでもなんとか言葉を出そうと、口から、いや喉からひねり出すように言う。


「ありがとう……。本当に……本当にありがとう……」


「なになに? 今のがそんなに嬉しかったの? 別に普通じゃない?」


小首を傾げたバンディーに、ティアは大きく息を吸って言った。


協力してくれるだけじゃない。


ライズとのことも、バンディーが体を張ってくれたからこそ彼女が自分の過ちに気付くきっかけになった。


その後に、スヴェインが不満そうだった他の仲間たちを説得してくれたからこそ今がある。


二人には感謝してもしきれない。


スヴェインはそう言って頭を下げたティアを見ると、側のテーブルの上にあったワインとグラス三つを手に取る。


「背負い過ぎだな、ティア王女。話は少し飲んでからにしとこう」


「そうそう。さすがスヴェインさんはいいこと言うな~。それにアタイらの仲でそんな言葉はいらないっしょ」


スヴェインに渡されたグラスにワインを注がれ、バンディーから歯を見せられながらそう言われたティアは、ただ笑顔を返してワインを飲み干した。

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