20

ティアが飲み干すと、バンディーはすぐに空になったグラスにワインを注ぐ。


それから彼女は、自分とスヴェインのグラスをワインで満たした。


すると、スヴェインがグラスを持って声を張り上げる。


「野郎ども! 今夜の豪華な料理と酒はティア王女からオレたちへのもてなしだ! そのお返しに、オレたちにできることはなんだ!? 誰か言ってみろ!」


大広間にスヴェインの声が響き渡った。


義賊団すべての人間が髭の大男に答える。


ティア王女のために、自分たちにできることは体を張るだけだ。


はるばる王都まで来たのは、ティアと共に自分たちの偽物をつぶすためだ。


そのためならば、どんなことでもやってやると、力になるために王都へ来たのだと、誰もがグラスを掲げて大声を発していた。


その光景を見て、義賊団に交じってワインを飲んでいたライズとポムグラが、互いに顔を見合わせて笑っている。


スヴェインは、団員たちの声を聞くと言葉を返す。


「よく言ったぞ、お前ら! ティア王女は王族という立場でいながら、オレたちみたいな鼻つまみ者に力を貸してくれっていうとんでもない娘さんだが、そんなイカれた王女さまのために体張るのも面白いだろ!?」


歓声が鳴りやまない。


ティアは言葉を失い、ただ聞こえてくる多くの声に耳を傾けることしかできない。


身が震える。


目頭も熱くなってくる。


人は小さなつながりだけで、ここまで協力してくれるのか。


ティアはこのとき生まれて初めて、人の和の中にいるという感覚を味わっていた。


王宮では、けして感じることができない経験を前に、今にも倒れてしまいそうになってしまうくらいに。


「誰も文句はないみたいだな! だったら今夜からオレたち義賊団は全員、ティア王女の指示で動く! そして、必ず義賊を名乗る連中をつぶしてやろうぜ!」


スヴェインが皆に応えるように、持っていたグラスに入ったワインを喉へと流し込んだ。


バンディーや団員たちも彼に続き、放心状態に近かったティアも慌てて二杯目を飲み干した。


彼らの義賊団には頭目とうもくはいない。


だが、元々団を旗揚げしたのがスヴェインということもあって、団員の誰もが彼を慕っている。


実質的なリーダーではあるが、スヴェインはただ仕切る人間が必要だというだけで、本人には頭を張っているという自覚はない。


戦闘の実力で言えば間違いなくバンディーが一番であり、他の団員のほうがスヴェインよりも優れていることも多い。


しかし、それでもこの寄せ集めだった団がまとまっているのは、すべてスヴェインのおかげだった。


ティアは団員たちを鼓舞するスヴェインを見て、これが人の上に立つ者かと思っていた。


そして、義賊団と話したこと――盗賊をやっている理由を聞いたときのことを思い出す。


彼らが金を奪うのは、国から決められた以上の税を民から搾り取る悪徳領主や、陰で孤児を人買いに売る貴族やそれで私腹を肥やす商人などからだ。


それを、よりにもよって自分たちと同じ義賊を名乗る連中がいて、自分たちが守っている平民から盗み、あまつさえ殺害までしている。


そんなことは許さない。


絶対に、絶対にだ。


数日前に聞いた話が、今まさに実際に耳に聞こえているかのように、ティアは感じていた。


その後、団員たちは酔いつぶれるまで酒を飲み、ベッドには行かずに(行けずのほうが正しい)大広間で転がったまま眠っていた。


ライズもまた彼ら彼女らと一緒に、だらしなくよだれを垂らして寝ている。


ティアはポムグラに手伝ってもらい、そんな皆に毛布をかけてやっていた。


やれやれといった顔で呆れながらも、彼女の顔には笑みがこぼれている。


ティアもこの夜の晩餐ばんさんを楽しんだのだろう。


だが、楽しい時間は終わり、むしろここからが本番と言える。


「すまないな、ティア王女。うち連中が羽目を外しすぎて」


申し訳なさそうに言ったスヴェインの傍には、バンディーともう一人、ティアに見覚えがない男が立っていた。


髪型は黒髪の長髪。


顔には傷跡があり、男にしては細身の体型をした、盗賊というには小綺麗な格好をしている人物だ。


「あ、そういえばこいつのことは知らなかったよね。ハーバータウンのときはいなかったから」


バンディーがそう言うと、スヴェインが男のことを紹介し始めた。


男の名はゾルゴルド。


元々は錬金術師をやっていたが、貴族たちの横暴や魔法を使えない者への差別から、義賊団に参加した経歴を持つ。


「初めましてティア王女。スヴェインさんがすでに言いましたが、俺がゾルゴルドです。まさか本当に王女さまとうちの団がつながっているなんて思ってもみなかったですよ。まあ、そんな感じで以後お見知りおきを」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


盗賊なのに物腰が柔らかい人だなと思いながら、ティアはゾルゴルドと握手をした。


なんでもバンディーが言うに、ゾルゴルドは王都の生まれのようで、城下町の地形にかなり詳しいようだ。


それは頼りになるとティアが答え、四人はポムグラに後を任して大広間から出た。


別の部屋で、義賊団を名乗る組織を捕まえる作戦を話し合うために。

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