21

「皆さん、紅茶でいいですか?」


別の部屋でティアが三人に飲み物を出そうとすると、ゾルゴルドは自分がやると声をかけた。


ティアは彼の好意に甘えて任せると、スヴェインやバンディーと共に部屋にあったテーブルにつく。


そして、話は前置きもなく始まった。


ティアが目星をつけている場所は二ヶ所。


城下町内にある、義賊団を名乗る組織の隠れ家だと思われるところを、用意していた地図で指し示した。


「しかし、今さらだけどよく調べられたね。従者もなしでさ」


「はは、私に従ってくれるような人は王宮にはいませんから」


バンディーの言葉に、ティアは自嘲気味に返事をした。


魔法を使えないティアは、王宮内では軽んじられている。


そのため、普段の生活のための侍女らはつけられているが、王女の酔狂に付き合ってくれる者などいないと。


ティアがそう言うと、バンディーは彼女の肩をバシッと叩いた。


結構力の入った一撃にティアが驚いていると、バンディーは言う。


「でも、今はいる。そうでしょう、王女さま」


「そうですね……。今の私にはあなたたちがいる。これまでには考えられない……とてもありがたいことです」


「おいおい、だからそういうのはこっ恥ずかしいって、さっき言ったでしょ」


バンディーが歯を見せて笑うと、ティアも照れながら微笑んだ。


ゾルゴルドが人数分の紅茶を入れ、各自の前に置いていく。


スヴェインがコホンと咳ばらいをすると、話を戻そうと言葉を続けた。


義賊団を名乗る組織の隠れ家が二ヶ所ならば、こちらも人数を分けて忍び込むのがいいだろうと。


「ティア王女は、そのことに異論はないか?」


「はい。私はこういうことは初めてなので、むしろ提案してもらって助かります」


「ならこうしよう。城下町の外れにある場所はオレとゾルゴルドが行く。もう一つはティア王女とバンディーで向かってくれ」


スヴェインの作戦は――。


まず三十人いる義賊団を十五人に分けて、スヴェインとゾルゴルド、ティアとバンディーが指揮を執る二つのチームにする。


そして、それぞれ隠れ家に忍び込み、もし組織の者がいればそのまま捕まえるというものだった。


問答無用というのがいかにも盗賊らしいと思いながら、それでもティアはスヴェインの提案に合意。


相手の戦力がどれくらいなのかはわからなかったが、それぞれ二十人近い人数がいれば大丈夫だろう。


話し方からするに、スヴェインはこの手の案件に慣れていそうというのもあった。


彼が指揮を執るのならば問題はない。


不安なのはむしろティアのいるチームだが――。


「うんうん。いいチーム分けだね。スヴェインさんにゾルゴルドがつけば大体のことは処理できるし、王女さまにはアタイとライズがいる。アタイらが組めば最強っしょ。きっとドラゴンだって倒せるよ」


こちらのチームにはバンディーと、なによりライズがいる。


この二人がいれば、たとえどんな相手が待ち構えていようが恐れることなどないと、ティアはバンディーの冗談のような言葉を頼もしく思った。


それと、まだよくは知らないが。


スヴェインとバンディーは、ゾルゴルドという男のことを頼りにしていそうなので、かなりの実力者なのだと思われる。


大丈夫、きっと上手くいく。


ティアは心の中で力強く思っていた。


「今さらだが、ティア王女。あんたに話しておきたいことがあるんだが」


「なんでしょうか、スヴェインさん。もしかして王都での滞在費ですか? それに関してはこちらがすべて引き受けるつもりですけど」


「それは助かる。だが、話はそのことじゃないんだ……」


スヴェインの顔が曇る。


ティアには彼が話しておきたいことが検討もつかなかったが、なんでも話してほしいと言った。


すると、バンディーやゾルゴルドまで心配そうな表情になり、そんな雰囲気の中、スヴェインが口を開く。


「王都まで来て、ここまで世話になっておいてなんだが……本当にいいのか?」


「すみません。私は察しが悪いのでスヴェインさんの言いたいことがわからないので、はっきりと言ってもらえると助かります」


「……オレたちとつながるということだよ」


スヴェインは、表情を曇らせたまま話を続けた。


ティアはジニアスクラフト王から王族とは思えないような自由を許されているようだが、スヴェインたちのような人間とつるんでいて大丈夫なのか?


仮にも一国の王女が、国の貴族から金を奪うような盗賊とつながっていることは、ティアにとって後々の問題にならないのか?


いくら義賊とはいえ、犯罪者の集団だ。


王都ではなく、別の町で料理や酒を飲んで騒ぐくらいならまだ捨て置ける範囲かもしれない。


だがたとえいかなる理由があっても、王女と盗賊の集団が手を組んで行動を起こせば、もはや見て見ぬふりができない事態になるのではないか?


スヴェインは関係のリスクについて、本当にわかっていて自分たちと戦うつもりなのかを、ティアに問うた。


気まずい空気が流れる中、ティアはスヴェインに向かって答える。


「国や民を守るのに、王女も盗賊もありません。私はあなたたちを信じている。それは、この先どのようなことが自分の身に起きようとも、けっして後悔などしないくらいにです」


「……王女の覚悟に水を差してしまったな。うかつなことを言ってすまなかった。謝らせてくれ」


スヴェインが頭を下げると、ティアは慌て顔を上げるように彼に寄り添った。


その光景を見たバンディーは、声を張り上げる。


「よし! 作戦も決まったし、改めて王女さまの気持ちを聞いたところで、これから飲み直そっか!」

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