傭兵女と無能な王女 ~持たざる二人の闘争~

コラム

01

黒い髪の女が一人で歩いていた。


胸と尻が盛り上がった女性らしい体型をしているが髪は男のように短く刈り上げており、体格はがっしりとして筋肉質だ。


さらにはその顔や体には戦いでついた傷があり、背負っている大剣の使い込んだ様から、これまでの彼女の生き様が見て取れる。


彼女は荒野を進む。


空はまだ明るく、吹く風も心地よいが、口元が上がっていても彼女の目は笑っていなかった。


そのとき、手荷物からして旅の途中といった彼女の前に、フードを被った三人の男たちが現れた。


男たちは無言のままナイフを構えると、一斉に彼女に向かって手をかざす。


そして呟くように詠唱し、宙に現れた魔法陣から炎が飛び出した。


いきなり攻撃を仕掛けてきた男たちは盗賊か?


またはここらをナワバリにしている組織の者なのか?


どちらにしても女にとっては危機的状況だった。


「へぇ、魔法か」


女は口角を上げたまま呟くと、三方向から向かってくる炎を斬り裂いた。


背負っていた大剣を抜き、目にも止まらぬ速さで一瞬にして炎を消してみせた。


炎の魔法を剣圧で吹き飛ばすなどあり得ない。


戸惑っている三人の男を見て、女は嬉しそうに笑った。


だが、それでも目は笑っていない。


相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべても、彼女の目は冷たいままだった。


笑っている女の態度に、三人の男は怒りを露わにしていた。


たかが炎の魔法を打ち消したくらいでいい気になるなと言わんばかりに顔を歪め、それぞれ走り出す。


女を囲むように動くと、三人の男は再び詠唱。


先ほど通じなかった炎の魔法を放とうとしたが――。


「おせぇんだよ、バァーカ!」


女も動き出し、彼女の背後にいた男の首が飛んだ。


続いて逃げようとした男の背中に、首をはねた男から奪ったナイフを投げつける。


ナイフは背中には当たらず、男の後頭部へ突き刺さった。


逃げようとした男はそのまま倒れ、完全に動かなくなる。


残された男は戦意を失い、その場で腰を抜かしていた。


まさか三人で仕掛けて女一人に負けるなど思ってもみなかったのだろう。


仲間を殺された怒りも、逃げることも命乞いすることも忘れて、ただ両目を見開きながら女を見ているだけだった。


「なあ、お前。ここら辺に住んでんの?」


女は怯える男に詰め寄ると、いくつか質問をした。


なんでいきなり襲ってきたのか?


ここら辺はなんという名前の国なのか?


震える男を見下ろしながら訊ねた。


「オ、オレたちは盗賊だ。だから金目当てで襲った。あとここらの国の名ははジ、ジニアスクラフト、ジニアスクラフト王国だよ」


「あー、たしか身分に関係なく魔法が使える国だっけ? じゃあ、仕事はありそうにないなぁ」


女の名は流れの傭兵ライズ。


彼女は仕事を求めて旅していたところ、偶然ジニアスクラフト王国内に入っていたようだ。


しかしライズが自分でも口にしていたように、ジニアスクラフト王国は王族、貴族、平民にいたるまで誰でも魔法を覚えることができる教育がされている国のため、他国からの侵略など皆無に近かった。


戦争がなければ傭兵の仕事などありはしない。


これは入った国を間違えたかとライズは思っていたが――。


「なあ、あんた! よかったその腕を、オレらで買うぜ!」


急に男が声を張り上げた。


男はライズに説明を始めた。


ジニアスクラフト王国では、誰もが魔法を覚えられるという制度のため、それによる差別や格差が酷く、現在そんな現状を変えようとする動きがあること。


さらに男が所属している盗賊団は、そんな国を変えようとする組織なのだと、意気揚々と口にした。


どうやら男は、ライズの魔法をものともしない強さに感服し、自分の所属する盗賊団に雇いたいようだ。


「オレが金額を決めれるわけじゃねぇが……。あんたの力を知れば、カシラならいくらでも出すはずだ!」


「ふーん、そいつは景気がいい話だ」


ライズは持っていた大剣を肩に担ぐと、興味なさそうに男に訊く。


自分が殺した二人の男とお前は、仲が良かったのか?


大事な仲間だったのか?


話していた内容とはあまり関係ない話を訊ねられた男は、戸惑いながらも答える。


「親友だったよ……。正直、仲間を殺されてこんなこと言ってるオレはどうかしてるのかもしれねぇけど……。それだけあんたの強さが別格だったと思ったんだ!」


「あ、そう。でも、やっぱムカつかない、アタシのこと?」


「あんたがウチに協力して国を変えれるんなら……あいつらも納得してくれると思う……。うぅ……」


悔しさや悲しさからか。


男は目から涙を流していた。


首のなくなった仲間とナイフが後頭部に突き刺さった死体をそれぞれ眺めながら、まるで謝るように泣いている。


その様子を見るだけで、男が言ったように死んだ仲間は大事な友人だったことが伝わってくる。


「話は変わるけどさ。メシが食えるとこって近くにある?」


「腹が減ってるんだな! だったらこの道を真っ直ぐ行けば町があるぜ! 当然金はオレが――ッ!?」


男が声を張り上げた瞬間に、その上半身が下半身から離れた。


地面に膝をついた下半身からは血が噴き出し、自分の半身を眺めながら上半身だけになった男が呟くように言う。


「な、なんで……? オレは仲間に……」


「だってお前ら仲いいんだろ? それで仇のアタシを雇っちゃダメだよ」


ライズはヘラヘラしながらそう言うと、喚く男を無視して町があると聞いた方向へと歩き出した。


大剣についた血を振って落として再び背に収め、何事もなかったかのように口笛を吹きながら。


「こんな連中がいるなら、なんとか仕事も見つかるかもねー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る