03

いきなり食ってかかってきたデカい女にお付きの男二人は戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻して返事をした。


悪いと思っているからこそこうやって丁寧に頼んでいるのだと。


だがライズは引かず、さらに二人に詰め寄る。


「お前らがなにもんか知らねぇが、アタシがメシを食うのを邪魔するんなら容赦しねぇ」


「話にならんな。よかろう。ここでは店に迷惑がかかる。表に出て話をしよう」


男の一人がそう言うと、お付きの二人は店内から外へ出ようとした。


すると次の瞬間、ライズは背を向けたお付きの男を蹴り飛ばす。


テーブルを巻き込んで転がっていく仲間を見て、もう一人の男が身構えた。


そして、蹴り飛ばされた男も立ち上がり、二人でライズのことを睨みつける。


「ちょっとあなたたち!?」


「ティア王女さまはお下がりください。すぐに終わらせますから」


お付きの二人は奥のテーブルに座っている王女にそう言葉を返すと、詠唱を始める。


二人の手からそれぞれ魔法陣が現れ、そこから尖った氷の刃が出現し、稲妻が迸った。


対するライズは背負っていた大剣を構え、二人と対峙する。


両手で剣を構える彼女を見て、お付きの二人が口を開く。


「ふん。どこのノラ犬か知らんが、魔法も使えない剣士ごときが我々ジニアスクラフトの魔導士に勝てるつもりか?」


お付きの二人の表情が、相手を見下すようなものへと変わった。


対するライズは、ヘラヘラと口角を上げながらもその目は一切笑っていない。


「大人しく金さえ受け取っておけばよかったと、後悔させてやるぞ」


騒ぎを聞き、慌てて奥の部屋から出てきた店主が、暴れるなら外でやってくれと叫んでいたがすでに遅く。


店内で荒事が始まった。


無数の氷の刃と雷がライズへと降り注ぐ。


それを見たティア王女は、席から立ち上がってお付きの二人を止めに入ろうと駆け出したが、王女は信じられない光景を目にする。


「なッ!? バカな!? 剣で魔法を斬り払っただと!?」


ライズは大剣を振り回し、氷の刃を砕くと、次に雷を剣で受けてそのまま店の床に叩きつけた。


店内に流れた稲妻で、お付きの二人の体が焦げ付く。


「どうもこの国の連中は魔法が使えるからっていい気になってるみてぇだな! アタシが教えてやるぜ! 世の中には魔法なんかにビビらねぇ奴がいるってことをよぉッ!」


そして、怯んだ二人の男にライズは斬りかかった。


だが、彼女の大剣は鳴り響いた金属音の後にそらされる。


それは間に入ったティアが、ライズの大剣を細身の剣で受け流したからだった。


「ティア王女……」


「あなたたちはじっとしていなさい。この者は私が相手します」


ティアはお付きの二人にそう答えると、ライズへと斬りかかった。


狭い店内で振るわれる刺突の連打に、ライズは下がらされていく。


それでも彼女に焦りはなかった。


相変わらずヘラヘラと口角が上がったままだ。


「へぇ、こいつは驚いた。魔法の国の王女さまなのに剣も使えるんだ」


「私に魔法は使えません」


「えッ? 魔法の国なのに? って、うわッ!?」


ティアの猛攻に、ライズは店の端まで追い詰められた。


王女は剣先を彼女に突きつけながら、どうして自分が優位に戦えているかを説明した。


狭い店内では、ライズの使う大剣は上手く振れない。


さらにいくつもあるテーブルや椅子が邪魔で、ライズの手足の長さが不利になっていると、彼女を見据えながら言う。


「もはやあなたに勝ち目はありません。とはいっても、非があるのはこちらです。大人しく剣を収めてくれれば悪いようには――」


「スゲーなお前! マジでこんなケンカが上手い奴は初めて会った!」


ライズは嬉しそうにティアの言葉を遮ると、彼女へと大剣を振った。


周囲のテーブルや椅子ごと巻き込んで、まるで嵐のような剣撃がティアの体を斬り裂こうと迫ってくる。


ライズには地の利など関係なかった。


ただ邪魔なら吹き飛ばしてぶっ壊す。


狭かろうが上手く剣が振れなかろうが、力づくで状況を変える。


とても剣士とは思えない考えだが、これがライズの強みだった。


そして、今度はライズが攻撃する番へとなり、店内を破壊しながら彼女はティアを追い詰めていく。


「どうしたどうした、王女さまよ!? 品の良いお稽古じゃこんな戦いはなかったか!?」


天井を砕きながら、ライズの一撃がティアへと振り落とされた。


凄まじい破壊音が鳴り響き、それはまるで地震のように周囲を揺らす。


しかし、ライズの一撃はティアには当たらなかった。


彼女は、ライズが地面に振り落とした大剣の上に乗っていた。


人の背丈を超える剣に乗ったまま剣先をライズの喉元に突きつけ、この戦いはティアの勝利といえる状態だ。


「あなた……いい……凄くいい」


そのときのティアの目は見開いており、まるで絶世の美女でも見たかのような興奮した表情でライズのことを見つめている。


ライズはティアにそんな眼差しを向けられて動けないでいた。


それは剣を突きつけられているのもあったが、何よりも「この女は一体何を言っているんだ」と、まるで蛇に睨まれた蛙のようになってしまった。


するとティアは剣を腰に収め、ライズの大剣から降りて声をかけてくる。


「私はジニアスクラフト王国の王女、ティア·ジニアスクラフト。あなたが欲しい。私のもとへ来なさい」

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