04
――酒場での騒動後、ライズはティアに身柄を引き取られた。
壊れた店のことは、すべてティアが話をつけて後で修復させることになった。
そして、食事はその後に見つけた宿で取ることになり、ライズはティアと共に取った部屋で向かい合っている。
「あなたが欲しいって……なに? 王女さまにはそっちの趣味があんの?」
出された肉料理を食らいながら、ライズは不機嫌そうにティアに訊ねた。
王族に無礼を働いたよそ者を許し、あまつさえ一緒に食事をしようと言ったティアに、ライズは不可解そうな表情を向けている。
彼女とは反対に、ティアのほうは満足そうな笑みを浮かべて答える。
「面白いことを言うのね、あなた。えーと名前はなんて言ったかしら?」
「ライズ。ただのライズだ」
「単純な話よ、ライズ。私はあなたが気に入った。でも、あなたが望むなら夜の相手をお願いしてもいいのだけど」
「ふざけんなよ。どうせ女を抱くなら、アタシみてぇなゴツいのじゃなくてもっといいのがいんだろうが」
「あら? そんなことないわ。あなたの容姿、私は好きよ」
クスリと上品な笑みを浮かべたティアに、ライズは苦い顔を返した。
全くとんだ王女さまがいたものだと言いたげに、やけ食い、やけ飲みでもするように肉とワインを喉へ流し込んでいく。
「とりあえず、アタシを殺すつもりはないってことはわかったけどよ。この国じゃ王族に剣を向けても罰を受けないのか?」
「あなたは特別よ」
「へー、でもお付きの二人が許さねぇんじゃねぇの? よくわかんねぇけど、国には法ってもんがあんだろ? 破ったら示しがつかねぇとかよ」
「大丈夫よ、あの二人にはもう帰ってもらったわ。これからは私とあなた二人だけで視察に回ることにしたから」
「あん? 視察に回るだぁ?」
表情を歪めるライズに、ティアは話を始めた。
彼女は今王族の仕事として、王国内の状況を見回っている。
先ほどの酒場で一緒にいたお付きの二人は、その視察するティアの護衛についていた魔導士だった。
だが、ライズに敵わない者では役不足だと、ティアは二人を王都へ追い返したようだ。
話を聞き終えたライズは、勝手に話が進んでいることに不満を持ったが、一応これはこれで仕事にありつけたかと受け入れることにした。
ようは、このよくわからん銀髪の青い瞳をした王女さまは、自分の腕を買いたいということなのだ。
王族ならば金払いもいいだろうし、一緒にいれば食いっぱぐれることはないだろう。
ライズはティアとの一騎打ちに敗れたことなど忘れ、とりあえず視察が終わるまでは食事の心配がいらないのを喜んだ。
メシが食えればそれでいい。
それが美味いものならなおいい。
金で動くと言われる傭兵とはいえ、このライズの考えは子どもじみているといえる。
一国の王女に剣を向け、それを許されて雇われたということへの疑念など、すでに頭の中から消えている。
もう少し慎重に物事を考えるのがまともな人間がすることなのだろうが、ライズにとっては、もうどうでもいいことになっていた。
彼女は雇い主が誰であろうと、自分を食わしてくれるなら、たとえ悪魔でも構わない。
「よし。じゃあ、王女さまの護衛は引き受けるよ。その代わりに移動中のメシとかその他もろもろは頼むぜ」
「もちろん払わせてもらうわ。では、これからよろしくね、ライズ」
「お、おう、王女さま」
ライズが答えると、ティアは眉を寄せ、眉間にはシワが入る。
どうして急にそんな顔になったのかわからないライズは、彼女にそのことを訊ねた。
すると、ティアはそのままの顔で言い返す。
「その王女さまってのはやめて。私のことはティアでいいわ。あ、でも他の人というか、王都の人間がいる前では王女さまでお願いね」
「なんかめんどくさいなぁ。だったらずっと王女さまでいいじゃん」
「それはダメ。雇い主とはいえ、私はあなたと対等な関係でいたいの」
ライズは、対等でいたいなどと口にする人間を初めて見た。
もちろん何か裏があってそういうことを言う人間は知っているが、今のところ自分のような傭兵と、気さくに名を呼び合う関係になってメリットがあるとは思えない。
金で雇っているよそ者、わざわざそんなことを言う必要はないのだ。
この王女さまは機嫌取りの相手を間違えている。
ライズはそう思っていたが――。
(でもまあ、悪くはない……。結構いいもんだな、おべっか使われるのも……)
まんざらでもないようだった。
そういえば他人から評価してもらったことなんてなかった。
傭兵の品定めが終わるのは、仕事が成功した後だけだ。
それならば経験がある。
雇い主が望む相手を殺せば当然喜んで褒めてくれるし、これまで何度も個人的に雇ってやると言われたこともある。
だが剣で斬り合って、しかも負けたのに雇いたいと言われたのは初めてだ。
「ライズ。あなたにはこれからずっと働いてもらうわ。もちろん、私だけのためにね」
ライズは、無邪気な笑みを浮かべて言うティアを見て、これまで感じたことのないむず
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