38

――次の日の夜。


王宮で義賊団たちを含めた協力者たちの祝賀会が行われた。


参加を許されたのはバンディーや一部の者たちだけだったが、むしろ他の団員たちは、それでよかったとホッとしていたようだ。


皆、着慣れない燕尾服やドレスを身にまとい、王や王妃、国中から集められた貴族たちの前で祝辞を受ける。


ジニアスクラフト王から直接、感謝を言い渡され、これまで義賊団を認めていなかった貴族たちも、今回の件の後は彼ら彼女らの活躍を称賛していた。


王の言葉の後にパーティーが始まり、格式の高い楽団の演奏が宮廷内に響いていた。


「ティア! ライズ! ちょっと助けてよ!」


バンディーが慌ててティアとライズに駆け寄ってきた。


どうやら先ほどから引っ切り無しにダンスを誘われ、彼女は困り果てていたようだ。


それも仕方のないことだと言える。


今のバンディーは普段の男のような格好とは違い、髪を綺麗に整えた豪華なドレス姿なのだ。


彼女の金色の髪とグリーンの瞳が、いつも以上に美しく映えている。


貴族たちは面白半分、興味半分もあったのだろうが。


まさか義賊団の主要人物に、このようなうるわしい女性がいるとは思ってもみなかったのだ。


今のバンディーの美しさは、この場にいる貴族の女性たちにも負けていない。


「バンディー、ドレス似合ってるわよ」


「ああ、化粧くせぇ貴族の娘どもよりも、今のお前のほうがイケてる」


ティアとライズの言葉を聞いたバンディーは、顔を真っ赤にして俯くと、すぐに顔を上げて彼女たちの手を引いた。


物凄い力で引っ張り、有無を言わさず二人を連れ回す。


それからバンディーは、風に当たってくると他の団員たちに声をかけ、ライズとティアを連れてバルコニーへと出た。


「おいおい、いきなりなんだよ?」


「飲みすぎたから風に当たりたかったの。いいからあんたらも付き合いなさい」


飲みすぎと言うには、いつもより酒を飲んでいなかったと、ライズとティアは互いに顔を見合わせて笑った。


そんな二人をムッと睨みつけたバンディーは、不満そうに口を開く。


「てゆーか、どうしてあんたらはドレスじゃないんだよ!? ライズはまだしもティアは王女さまなんだから正装はドレスのはずでしょ!?」


バンディーや他の女性団員とは違い、ライズとティアは燕尾服姿だった。


こんなパーティーでも男装かと、だったら自分もそっちがよかったと、バンディーは恨めしそうに二人に言った。


ティアは、そんな彼女に謝りながら返事をする。


「ごめんなさい。でもね、バンディーたちには一度着てみてほしかったの。今の綺麗になったあなたたちの姿、きっとスヴェインさんやジャンも喜んでいると思うから」


「そんなずるいこと言って……。そう言われたらなにも言えないでしょうが。でも、だったらライズだって、ドレスなんて着たことないんじゃないの?」


ライズはバンディーに話を振られると、持っていたワインの瓶を開けてゴクゴクと飲み始めた。


宮廷でははしたないされるマナー違反の行為だが、バルコニーには彼女たちしかいないので問題はない。


「アタシの体に合うドレスがあると思うのかよ? それこそ特注で作らなきゃいけねぇぞ」


以前に着たことがあると、ライズは言わなかった。


実はティアが彼女にもドレスを着せようとしていたのだが、どうやらそのドレスが部屋から消えてしまっていたようだ。


ライズは身長179cmに体重は66kgと、そこらにいる男性よりも体格がいい。


見た目に比べて体重が重いのは骨が太いというのもあるが、なんにしても彼女の体型に合うドレスは、今日までに用意できなかった。


バンディーも身長168cmに体重58kgと女性にしてはたくましいほうだが、ライズと比べたら華奢きゃしゃになる。


ちなみにティアは身長160cmに体重50kgと、身分の高い女性にしてはガッチリとしているほうだ。


「次のパーティーにはライズのも用意するからね」


「いらねぇよ。それよりも新しい剣を作ってくれ。こないだの戦いでヒビが入っちまったんだ」


ティアがそう言うと、ライズはフンッと鼻を鳴らし、ドレスよりも剣を欲しがった。


それを聞いて、実に彼女らしいと思ったティアとバンディーは呆れながらも笑った。


その後、パーティーも佳境に入り、再びジニアスクラフト王が皆の前に姿を現す。


「まずは皆のものに良い知らせがある。今回のことでエルムウッドの治安改善のため、兵を派遣することになった」


王は後方に王妃とウィネス王女を連れ、淡々と話を続けた。


ゾルゴルドたち組織の暗躍や、義賊団の活動の内容を契機に、エルムウッドをはじめ、国内中を今一度、調査することが決まる。


これにより王都までは知らせられなかった、領民に必要以上の税を課す貴族などを一掃すると。


「それと、我がことながら恥ずかしいが、娘のティアにも報いてやりたい」


王はティアについての想いを語った。


これまで魔力がないというだけで、ティアに冷たく当たってしまっていた。


ずっと娘には何もできないと思っていた。


だが、今回のことで考えを改めなければならない。


「娘はずっと戦っていた。この国の偏見と差別に対して……。その想いを汲み、今後は魔力が低い者、魔法が使えない者も同等の条件で役職に就けるように努める」


王の言葉で会場に大歓声が轟いた。


それが一体なにを意味するのか。


ライズにはわかっている。


ティアと義賊団の努力が、ついに実を結んだ。


彼女たちの長い闘いが国を変えた。


しかも暴動など起こすことなく、革命を成し遂げたのだ。


長い間蓄積された偏見や差別はすぐには消えないだろうが、ティアたちの力によって確実に変化が始まる。


何か褒美をもらったわけではないが、ライズはまるで自分のことのように嬉しかった。


「やったな、ティア。なんだかアタシまで鼻が高いぜ」


「あなたのおかげよ、ライズ。私は、あのときあなたと出会えたからこうして……」


自然と手を取り合った二人は抱き合い、それから音楽に合わせて体を揺らした。

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