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空が
ライズは、ようやくティアを目的の場所へと連れて来れた。
そこは王都の城下町の外――花が咲き乱れる野原に、バンディーたち義賊団の面々の姿があった。
野営とは少し違うのか。
さらにはどこからか持ってきたテーブルなどが並べられ、そこには無数の皿に盛られた肉や魚、野菜などの料理に、まだ開いていないワインの
「ちょっと遅いよ、二人とも。なにやってたの?」
二人が近づいて来ると、彼女たちに気がついたバンディーが声をかけてきた。
彼女に続いて団員らも、ライズとティアに向かってブーブー不満を口にしている。
ライズは悪い悪いと返事をしながら手を振り、早速テーブルにあったワインの瓶を手に取った。
「町を歩いてたら人が集まって来ちまってよ」
「そりゃそうでしょ。アタイらでさえ義賊団っていっただけで目の色を変えて寄ってくるんだよ。その中でもあんたらは特に英雄扱いされてるんだから、今後はもう普通に町の中を歩けないかもね」
「認められるってのも面倒だな。それになんか今考えると、手のひら返しって感じで気に食わねぇし」
これまでティアを小馬鹿にしていたことや、義賊団を泥棒の集団と言っていたことを思い出し、ライズはムスッと頬をふくらませた。
彼女の態度を見て皆が笑っているが、それは誰もが思っていることだった。
しかし所詮、群集とはそういうものだということは、こうなる前からスヴェインに聞かされていたことや、今までの経験から知っているのもあって、皆あまり気にしないようにしている。
ともかく今夜は前夜祭だ。
明日に城で行われる夜の祝賀会では、王や王妃に加えて国中から身分の高い者が集まってくる。
大々的に認めてくれるのは嬉しいが、義賊団は全員、平民の集まりだ。
正直いって堅苦しいのは好きではない。
ならばその前に、仲間たちだけで気兼ねなく騒ごうと、バンディーが皆に提案した。
「そんなの全然聞いてないよ!」
「ほら、ティアはずっと王宮にいたからさ。アタイらも城下町で待機しているように言われてたし。なかなか伝えるチャンスがなかったんだよねぇ。ごめん……」
事件の雑務で忙しかったティアには報告できなかったのもあって、直前になったことをバンディーをはじめ皆が謝った。
団員たちがティアにグラスを渡し、ワインを注いで申し訳なさそうに笑っている。
そんな中でティアは、ライズのことを睨んでいた。
城に出入りできる彼女なら、自分に伝える機会があったのではないかと、その視線で語るが、ライズは口笛を吹きながら視線をそらしている。
まあいいかとティアが気持ちを切り替えると、夕日にさらされた野原に、馬の鳴き声が響き渡った。
その鳴き声のほうへ皆が視線を向けると、そこにはワイングラスを掲げた女――オーバーコートにフェイスベールを口元につけたポムグラが立っていた。
ポムグラの傍には彼女の馬車を引いていた馬と、ジャンの宿屋にいた子どもたちが一緒に並んでグラスを持っている。
「よし、じゃあ主役も来たことだし、前夜祭を始めようか! みんな、今日は好きなだけ騒ごうじゃない!」
どうやらあの事件以来、ポムグラも義賊団と
それは宿屋にいた子どもたちも同じで、皆こんな豪華なパーティーは初めてだと、嬉しそうにはしゃいでいる。
「その前に、ティア王女に乾杯の音頭をお願いしようかね」
「えッ? わ、私ですか?」
ポムグラがティアに声をかけると、その場にいた全員から歓声が上がった。
やってくれ、王女さまと、今か今かとグラスを持ってうずうずしている。
「ほら、早くやってよ。みんな待ってるんだから」
バンディーがティアの肩に手を回す。
ティアは戸惑いながらも皆の顔を見て、ゆっくりと口を開いた。
「では、ここにいるみんなと、スヴェインさんにジャン、そして義賊団の仲間たちに乾杯!」
ティアの声の後、皆が持っていたグラスを重ね合わせた。
カンッという音が広場中に鳴り響くと、再び騒ぎ声が聞こえ始めた。
笑い声と共に中には涙を流しながら咆哮する者もおり、誰もがこれまでの苦労を喜びに変えていた。
ティアはそんな仲間たちを皆を眺めながら、その身を震わせる。
目頭が熱くなる。
身分も立場も関係なく皆で大事を成し遂げたと。
仲間の死を乗り越えて国を救ったのだと。
涙で目の前が滲んでくる。
「みんな! 楽しんでるとこ悪いけど、これから重大発表があるよ!」
しばらく盛り上がった後、ポムグラがいきなり大声を出した。
いつの間にかテーブルで壇上を作り、その上から皆に向かって呼びかけている。
ティアが一体何事だと思っていると、壇上にいたポムグラの隣にバンディーが立っていた。
「もう知ってる人がほとんどだと思うけど、今日から義賊団はティア·ジニアスクラフトを団長とした兵団になる! もちろんワタシも
「そして、アタイがその栄えある兵団の副団長をやらしてもらう! さらには我らがライズを特攻隊長とし、これからは堂々と悪党を退治していくんだ!」
突然の発表にティアは驚きを隠せなかった。
義賊団が自分の兵団になるなど、彼女は考えてもみなかったのだ。
元々頭目がいない盗賊団だったバンディーたち義賊団。
仕切りこそスヴェインがやっていたものの、彼が死んでしまい、団員たちなりに自分たちの今後を考えていたようだ。
「まあ、もちろん。ティア王女が認めてくれたら話だけどね」
「どう、ティア? アタイらの団長になってくれる?」
壇上からポムグラとバンディーがティアに訊ねてきた。
ティアは言葉に詰まりながらも笑みを浮かべ、コクッと頷いた。
そこからさらに大歓声が起こり、再びグラスがぶつかり合った音が鳴り響く。
そのときの音は、まるで楽団の演奏のようにリズミカルに流れ、歌まで歌い出す者までいる。
「つーわけ、これからこいつら共々よろしくな、ティア団長」
「ライズ……。あなたも知ってたのね。もうっいじわるなんだから」
「アタシのせいか? 黙っていようッて言ったのはポムグラさんだぞ」
ティアとライズはそう笑い合うと、仲間たちとの宴を楽しむのだった。
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