39
――王宮での祝賀会から数日後。
ジニアスクラフト王の言葉通りに、国内すべてに調査が入った。
このことにより、これまで私服を肥やしていた領主や貴族は捕らえられ、然るべき罰を与えられた。
さらには商業都市エルムウッドや、他の治安が悪かった街や村にも警備の兵が駐在され、帰る家を持たない孤児なども王都にある孤児院に引き取られた。
亡きスヴェインとジャン、それから死んでいった義賊団の団員たちが生きていたらさぞ喜んだことだろう結果が、ジニアスクラフト王国中で起こる。
そして王が同時に公約していた、魔力が低い者や魔法が使えない者への評価も改められ、すべてはティアと義賊団たちの望む形となっていた。
「おい、ライズ! あんた今日もサボるつもり!?」
バンディーが兵舎から出ていこうとしていたライズに声をかけた。
彼女たちはこれから日課である、ティア王女の新しい兵団として始めた訓練を行うところだった。
だが、ライズはどうも陣形やら連携やらが苦手なようで、あまり熱心に参加はしていない。
兵団の統率はティアやバンディーに任せると言って、彼女はいつも姿を消す。
だが、今日は逃げる前に声をかけられたというところだった。
「あんたは特攻隊長なんだよ!? そんなんで先陣を任されたらどうするんだ!? 隊長が兵の指揮も執れないようじゃマズいでしょ!」
「先陣を任されたら突っ込むだけだ。アタシはこれまでずっとそうしてきたぞ」
「あんたはもう傭兵じゃないんだよ!
ライズはまた説教かと顔をしかめると、渋々準備してくると答え、その場から去っていった。
その様子を見ていた団員たちが、乾いた笑みを浮かべながら何も言えずにいる。
皆、バンディーの言うこともわかるが、ライズが兵を指揮するのに向いていないことを知っているのだ。
何よりも本人にやる気がない。
しかし、ただの根無し草の傭兵だった者が、一国の王女の私兵――ましてや隊長として抜擢されるなど、余程の幸運である。
まともな感覚でいえば、手放しに喜び、その役目を全うしようとするはずだ。
実際にゾルゴルドら義賊団を名乗る組織との戦いで生き残った団員たちは、盗賊から王女のお抱え兵団の一員として生きることになり、心から喜んでいた。
自分たちのやっていることが正しいと信じていても、国の鼻つまみ者だった彼ら彼女らにとって、それは出世できたということ以上に認められたことに他ならない。
バンディーなどがわかりやすく、亡きスヴェイン、ジャンなど死んでいった仲間たちに恥じぬ副隊長になるのだと、このところは貴族や騎士の作法までポムグラに習うようになっていた。
こないだの祝賀会での最後に、義賊団の幹部クラスの人間には爵位と騎士の地位が与えられることに決まったのもあったのだろう。
ライズとポムグラは、自分たちは義賊団の幹部ではないと褒賞を辞退したが、団の古参であるバンディーには、二人のような勝手ができない責任がある。
そんな状況からか、バンディーはなんとかライズに責任感を持たせようしていた。
だが、ライズは最終的には彼女の言うことを聞くものの、どこか投げやりなのだ。
「あまり怒鳴っても逆効果なんじゃないかい?」
ライズが去った後、ポムグラがバンディーに声をかけた。
彼女も今ではティアの直属の兵団の一員である。
役割は戦場での食料や移動物資、軍馬などの管理担当だ。
ポムグラ自身は多少魔法が使えるくらいで、剣もろくに振れないが。
彼女のように補給、輸送、整備、さらに衛生面での管理ができる人物は必要だ。
つまりポムグラは後方支援の隊長であり、もちろん訓練にも参加している。
「でもさ、ポムグラさん。ライズはゾルゴルドを倒した団で一番の戦士ってことになってんだから。あいつに憧れてうちに入りたいって若い奴も増えてるし。少しは隊長の自覚ってヤツを持ってもらわないとさ」
「あの子はあんたみたいに、人の上に立って指示を出すなんて初めてなんだ。もう少し長い目で見てあげなって」
「アタイだって初めてみたいなもんだよ。これまではスヴェインさんやまだ団にいた頃はジャンだったり、そういうの任せっきりだったから」
「それでもあんたには素養があるよ。いや、素質ともいえるかもしれないけどね。まあ、なんにしても、ライズはあんたやティア王女みたいに器用にはできないと思う」
「うぅ……そう言われてもなぁ……」
ポムグラは両腕を組み、眉を下げたバンディーを見て微笑むと、彼女の肩をポンッと叩いた。
それから訓練を始めに行こうと声をかけ、バンディーと共に兵舎から出ていく。
場所は城下町から外に出た広場だ。
近くには祝賀会の前夜祭として使われたところもあり、今ではすっかり彼女たちのたまり場にもなっている。
「今はそっとしておいたほうがいいのかなぁ……」
「とりあえず様子を見たほうがいいのは確かだね」
馬に跨り、城下町を出たバンディーとポムグラだったが、まだライズの心配をし続けていた。
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