33
義賊団を名乗る組織の黒幕はゾルゴルド。
その事実に、ティアは驚きを隠せなかった。
いや、その正体を見てもなお、まだ信じられない。
「ゾルゴルドが……黒幕だったの……?」
「ああ、ボクも信じたくなかった。ずっと国を恨んでいたのは知っていたけど、まさか親父やみんなを殺すまで恨みを晴らそうとするなんて……」
ジャンは歯を食いしばっていた。
それはバンディーも同じで、二人の悲痛な想いが伝わってくる。
二人はジャンが先ほど口にしたように、ゾルゴルドがスヴェインや仲間たちを殺したのを信じたくないのだ。
そこには義賊団ではない者には、けしてわからない想いがあるのだろう。
ティアも同じように信じたくなかったが、バンディーとジャンは彼女以上にショックが大きく見えた。
「ゾルゴルド。君は部下に義賊団を名乗るように言い、国中から金を集めていた。その金はバンディーから聞いた話だと、妙な実験に使っていたらしいね」
「ああ、そうさジャン! これさえあれば、この理不尽の
ジャンは、いきなり立ち上がって声を張り上げた。
そのときの彼は
まるで何か超常的な存在に選ばれたかのような――両目を見開いて笑みを浮かべている。
誰もがそんなゾルゴルドに視線を奪われていたとき――。
地面に落ちていた剣やナイフが宙へと浮かび、義賊団へと襲いかかった。
まるで統制された軍隊のように動いては団員たちを貫き、夜のエルムウッドの広場に男女の悲鳴が響き渡る。
「みんなッ!? なんだこれは!? 一体何が起こって――ッ!?」
「わからないのか、ジャン? なら教えてあげるよ!」
ジャンが襲われた団員たちに気を取られていると、ゾルゴルドは彼を抱きしめるように飛びついた。
するとジャンの腹から血が流れたと思えば、次には口から血が噴水のように噴き出す。
ジャンを抱くゾルゴルドの目には涙が流れていた。
彼は古くからの友人の耳元で何かを呟くと、ジャンの体を放り捨てる。
「これが大事なものをすべてを捨てて手に入れた力さ。……すまない、ジャン。我が親友よ。あの世でスヴェインさんに、俺が謝っていたと伝えておいてくれ……」
「なにしてんだ、あんた!」
バンディーはすぐに飛びかかったが、彼女のショートソードがゾルゴルドに届く前に弾き飛ばされた。
そこには、義賊団を襲った刃物の群れが宙を舞っていた。
その数は何十、いや何百はあるか。
団員たちが倒されていくのもあって、その数をさらに増やしている。
「なんだこいつは、なんか変な魔法でも使ったのかよ!?」
ライズが大剣で向かってくる刃物を払いながら訊ねると、バンディーはティアと共に彼女の背中に自分の背中を合わせて構える。
「それはないよ。だってゾルゴルドにできるのは、せいぜい小さな風を起こすことくらいだったはず――ッ!?」
「気がついたようだな、バンディー。そうさ。この魔導具の力で、俺のような魔力が低い者でもこれだけのことができるようになる」
ゾルゴルドが指をパチンと鳴らすと、宙に浮いていた無数の刃物の速度が上がった。
その速さは並みの剣士の剣速を遥かにしのぐもので、団員たちが次々と倒されていく。
その魔の手はゾルゴルドにやられたジャンにまでおよび、動けずに倒れている彼に向かって、今まさに降り注ごうとしていた。
「ライズ! 王女さま! アタイはジャンを助けたい! 手を貸してくれない!?」
「言い方がちげぇだろ、バンディー! こういうときは頼むんじゃねぇ! デケェ声で“手を貸せ”って叫ぶんだよ!」
「ライズの言う通りです! バンディーも前に言ってたじゃないですか!? そういうのはこっ恥ずかしいって!」
バンディーの声に対し、ライズとティアが応える。
仲間を助けるのにお願いなどするなと。
いくらでも命を懸けると。
彼女たちの気持ちを受け取ったバンディーは走った。
ジャンを助けるため、ライズとティアに左右を牽制してもらいながら駆ける。
「待っててジャン! すぐに治療してあげるから!」
バンディーは倒れていたジャンに声をかけ、持っていた傷薬を彼の傷口にぶちまけた。
腹を何か鋭利なもので刺された痕があるが、外傷は少ない。
これならば助けられる。
バンディーはそう思ったが、ジャンの口からは何度も血が吐き出されていた。
まさか内臓をやられているのか?
慌てながらもバンディーは、必死に傷口を布で押さえるが、ジャンの顔からは生気がなくなっていく。
「バ、バンディー……」
「喋るな! こんな傷大したことないから! すぐに治るから! だから……だからぁ……」
「宿にいる子たちを……頼んだよぉ……。君にしか頼めないんだ……。大丈夫……。みんな、君のことを嫌っているわけじゃないから……ただちょっと……構われるのに慣れていないだけ……」
「そんなこと言うな! アタイじゃダメだ! あんたにはこれからもずっといてもらわなきゃ!」
こんなとき、自分に癒しの魔法が使えたら――。
バンディーは、なぜ自分にその素養がなかったのかを恨んだ。
彼女の属性は火。
低い身分の生まれながらも、たぐいまれな才能を持っていた。
実際に、義賊として活動してからも役に立つことも多かった。
しかし、バンディーが欲しかった才能は違った。
彼女は仲間の死を経験する度に思った。
どうせ秀でた才能を得られたのなら、誰かを救うためのものであってほしかったと。
それは才能のない者からすれば贅沢な苦悩だったが。
幼少の頃から身近な人を失い続けたバンディーにとっては、考えると眠れなくなるほどの悩みだった。
才能があっても望む自分にはなれない。
その事実だけは誰にとっても平等なのかもしない。
「それと……こんなとき……だけど……。ボクは……ずっと君のことが……」
「ジャン、ジャン! 死んじゃヤダーッ!」
バンディーの想いも虚しく、ジャンの言葉はそこで途切れた。
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