34
動かなくなったジャンにすがりつくバンディー。
ライズとティアはそんな彼女を守りながら、目の前にいるゾルゴルドに向かって叫ぶ。
「テメェだけは許さねぇ! ぜってぇにアタシの手で殺す!」
「ゾルゴルド! あなたは泣くほど大事な人を殺して、それで満足なのですか!?」
二人の声にゾルゴルドは反応していなかった。
それは無視しているというよりは、彼自身の意識が
両手で頭を抱えながら呻き、ブツブツと独り言を呟いている。
それでも宙を舞う刃物の動きは止まらない。
むしろ水を得た魚のように、その勢いを増している。
「俺は……この国を変えるんだ……。そのために……すべてを捨てて……うぎゃぁぁぁッ!?」
俯いていたゾルゴルドが急に苦しみだした。
それと同時に、彼の手の中にあった黒い石――
その姿はまるで悪魔か。
全身が禍々しいまでに巨大化し、すでに人の形すらしていなかった。
まるでゾルゴルドの黒く染まった心を具現化したような姿だ。
「こ、これは、ゾルゴルドが魔導具に適合できなかったから……なの……?」
一体何が起きているのかはわからないが、ティアは予想する。
先ほどゾルゴルドが言っていた話から推測する。
おそらくゾルゴルドでは
そのために魔導具に適合する人物――ティアを捕らえ、自分に協力するように言ったのだ。
しかし、たとえ力が制御できずとも、この場でゾルゴルドを止めれるかという話にはつながらない。
元々は使用者の願いをかなえる魔導具を作ろうとして生まれた魔石だ。
そんな神か悪魔のような力を止めるなど、人間ごときにできるはずもない。
だが、ティアが諦めかけていたそのとき――。
二人の女が
「みんな聞いて! ここでこの化け物を止める! それがこの国を愛したスヴェインさんの意志で、ジャンや死んでいった仲間の想いでもあるんだ!」
「ビビってんじゃねぇぞ、義賊団! こんなの大したことねぇ! お前らは国を相手にずっと戦ってたんだ! 今さら怖いもんなんてねぇだろ!」
バンディーとライズが、悪魔じみた姿となったゾルゴルドへと突っ込んでいく。
彼女たちに檄を飛ばされ、生き残っていた団員たちも奮い立ち、全員がゾルゴルドへと駆け出していった。
向かってくる無数の剣やナイフを振り払い、四方から囲むように襲いかかる。
これならばなんとかなるかもしれない。
皆で力を合わせれば
ティアはライズやバンディー、義賊団の奮起から望みがあると思ったが、それは甘かった。
仲間たちがゾルゴルドに近づくと、彼の周囲から風が巻き起こって皆を吹き飛ばしていく。
嵐の脅威に誰もなす
もはやこんな相手にどうやって勝てというのか。
ティアはあまりの恐ろしさに、震えて動けなくなっていた。
神だ、いや悪魔だ。
ゾルゴルドは人間を辞め、魔力そのものになったのだと、ティアは持っていた剣を握っているのが精一杯だった。
「ティ……ア……。ティ、ティ……ティアァァァッ!」
動けなかろうが、ゾルゴルドはティアに迫ってくる。
すでに我を忘れて
それはティアに魔石を使わせ、このジニアスクラフト王国を変えること。
魔法が使えないからといって、差別や理不尽な仕打ちを受けないこと。
その願いだけは、たとえ今のような化け物になっても、はっきりと動きで示している。
その真っ黒な体を津波のように広げ、ティアの名を叫びながら近づいてくる。
しかし、ティアは動けないままだ。
彼女はこのまま、ゾルゴルドに飲み込まれてしまうかと思われたが――。
「大したことねぇ……大したことねぇんだよ……。お前なんかより、バンディーのほうがよっぽどおっかなかったぜ!」
ライズが大剣を振り、ゾルゴルドを吹き飛ばした。
広がっていた黒い体が吹き飛び、ゾルゴルドがこの世のものとは思えない叫び声をあげている。
続いて倒れていたバンディーが炎を放った。
凄まじい業火がゾルゴルドの全身を包み、その場でのたうち回る。
「言ってくれるね、ライズ。アタイはあんとき、あんたにボッコボコにされたんだけど」
「ああいうのが意味のあるケンカだって知ってビビってたんだよ、アタシは。おい、ティア! お前もそうだ! アタシを叩き伏せたときのお前はどこいったんだよ!? こんなで終わるタマじゃねぇだろ!?」
「えぇッ!? ティア王女ってあんたに勝ってたの!? そりゃ……十分化け物だわ」
バンディーがライズと並び立つ。
二人は軽口を叩き合うと、ゾルゴルドへと向かっていった。
彼女の背中を見ていたティアは、握っていた剣に力を込めると、震える体を無理やりに抑えつけた。
言うことを聞けと。
ライズの言う通りここで終わってたまるかと。
二人に続いて黒い化け物へと歩を進める。
「皆でやる……。さっきバンディーが言ったように、死んでいった仲間たちの意志は私たちの中で生きてるんだ!」
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