32
「
ティアは、組織の地下室で見つけたものを思い出した。
様々な魔術、化学の実験のための薬や道具の中にあった一枚の
そして、それに書かれていた内容を。
そう――願いをかなえる魔導具は、すでに完成していたのだ。
「察したようだね、ティア王女。これがあればこの国を変えることができる。あなたはこの国の女王になることができるんだ」
「なぜ……私なの? もしそれが願いをかなえるものなら、あなたが王になればいいじゃない?」
「俺じゃダメなんだ。差別の象徴としては民衆や他国へのアプローチが弱いし、何よりもこの魔導具の完全な力を引き出す適合者は、あなただけなんだからね」
フードの男は説明する。
完成させた
どうやら願いをかなえる魔導具ではなく、使用者に人を超えた力を与えるものとして出来上がってしまったらしい。
それからさらに研究を重ねた結果。
この魔導具には命というか意思が宿っているらしく、
「私にだけ反応するって……。そ、そんなことが……」
戸惑うティアを無視して、男は話を続ける。
「しかし、俺はこの結果に満足している。差別を受け続けた王女が国を変える……。それこそ革命と呼ぶに相応しいとね!」
男は黒い石――
捕らえた相手にやる態度とは思えないほど
「さあティア王女、いや、ティア女王! これを受け取り、あなたがジニアスクラフト王国に君臨するんだ! あなたならばこの国の闇を、差別を、理不尽をなくせる!」
声を張り上げてティアに迫るフードの男。
ティアが差し出された手を拒否することも、ましてや受け入れることもできずにいると、
大事なときに水を差されたと思ったフードの男は立ち上がり、抑えつつも不機嫌な声で入ってきた者に、背を向けたまま声をかける。
「しばらく二人にしろと言っておいたはずだが、何かあったのか?」
「ああ、大ありだよ、クソ野郎。アタシの雇い主になにしてくれてんだ?」
声を聞き、フードの男は慌てて振り返る。
そこには、身長180cm近くある大きな短髪で黒髪の女と、彼女ほどではないが、背が高く、金髪を一つに束ねた女が立っていた。
ライズとバンディーだ。
二人の後ろからは、ライズよりも背の高い細い目をしたブラウンヘアの男が入ってくる。
その男はジャンだ。
突然現れた三人を見たフードの男は、思わず後退りながら、椅子に縛りつけられているティアから離れていく。
「な、なぜお前らがここに!?」
「さすがに驚いているね。今説明してあげるよ」
ジャンがライズとバンディーの前に出て、その口を開いた。
スヴェインはティアに呼ばれて王都へ行く前に、国内にいるすべての団員や関りがあった者たちへ手紙を送っていた。
今回の戦いがおそらく壮絶なものになることを知らせ、他の仲間たちの協力を得られないことを残念だと書いた内容のものを。
しかし、手紙に書かれていたのはそれだけではなかった。
もし数日後にスヴェインから連絡がなければ、ハーバータウンにいた義賊団は壊滅、またはほぼ全滅している可能性がある。
そのときは、皆で協力してほしい。
自分の代わりに、ティア王女に手を貸してやってくれと。
「スヴェインの親父は、事前にボクらに知らせていたんだ。ティア王女のことや彼女が信用できる人物だとね」
「アタイも知らなかったから驚いたよ。でも、考えてみればスヴェインさんらしいっちゃらしいよね」
ジャンに続き、バンディーがそう言うと、ライズは握っていた大剣をフードの男に突きつける。
フードの男はうぐぐと呻き、仰け反りながら声を張り上げる。
「何をやっているんだお前たち! 敵が侵入しているぞ! さっさと片付けろ!」
「外の奴らなら全員寝てるぞ。よっぽどお疲れだったんじゃねぇか」
ライズが茶化すように答えると、フードの男はさらに口元を歪める。
「バカな、ハッタリだ! 外には百人の同士がいるんだぞ! それをお前ら三人で倒すなど不可能だ!」
「話を聞いてなかったんだね。ボクは言ったよね? 親父は、国中の仲間に手紙を送ったって」
ジャンの言葉を聞き、フードの男は慌てて幕の外へと飛び出した。
そこには剣や斧を手にした男女の集団が立っており、その地面にはフードの男と同じローブを着た者たちが倒れている。
フードの男は両膝をついてその場に屈し、その光景を見て絶望した。
その後ろからは、縄を解かれたティアとライズたちが現れる。
「こんなことになるなんて残念だよ。ボクも親父もみんなも、君のことが大好きだったのに……」
ジャンは屈しているフードの男の前に立つと、その被っていたフードを払って男の顔をさらけ出した。
「なんで……なんでこんなことをしたんだよ、ゾルゴルド……」
フードの男の正体は、義賊団の団員の一人――ゾルゴルドだった。
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