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――バンディーは城下町の外で、団員たちと訓練をしていた。
平原には、歩兵、騎兵、弓兵と分けられた団員たちが並んでいる。
全員、訓練ということもあってか、武器は持っていなかった。
どうやら今日の訓練は、陣形の練習だけようだ。
「全体、もう一度最初からだ! まずは縦陣!」
バンディーの号令とほぼ同時に、団員たちが動き出す。
そのまま軍の進行方向に対して数列に並んで進む縦陣。
この陣形の利点は最も歩きやすい道を全員が進めることで、進軍するとき多くの軍がこの陣形を組んで進む。
また戦闘においては、前に立つ兵が壁となり、戦場の恐怖から目を塞いでくれる。
後ろから進む兵士が背中を容赦なく追い立てるため、士気の低い――すぐ逃げ出すような軍でも、縦陣は効果的だと言われている。
反面、軍の多くが直接戦闘しない遊兵となるので戦闘力はあまり高くなく、その上、横から攻撃されると簡単に崩壊してしまう欠点がある。
「よし、次は横陣だ! 各自、一斉に動け!」
横陣は進行方向に対して横に並んだ陣形。
こちらは兵の大半が戦闘に参加でき、高い攻撃力が期待できる。
だが進行する際には歩きやすい場所を歩く者、そうでない場所を歩く者と出てくるので、陣形が乱れやすくなる。
また後ろを遮る者が何もないので、士気の低い兵はすぐに逃げてしまう欠点がある。
バンディーは、ティアから教えてもらった様々な陣形を、元義賊団――現王女直属の兵団に教え込んでいた。
ハーバータウンにいた彼女の仲間は全員死んでしまったが、スヴェインが死ぬ間際に手紙を送り、ジャンがまとめた団員の数は五百人を超える。
ジニアスクラフト王国にいるすべての義賊を集まったのもあって、連隊クラスの数だ。
元々は陣形のじの字も知らない盗賊の集まりだが、日々の訓練もあって、始めてから数日――かなり形になってきている。
そのため基本的なものならば、すでに王国軍と比べても引けを取らないくらい練度も上がっていた。
「うんうん、なかなかいい感じじゃないの。それにしてもライズの奴……いつになったら来るんだよ」
「おーい、バンディー副団長。ここらで休憩にしないかい」
バンディーが団の動きに満足し、ライズのことを思い出しているの見て、ポムグラは休もうと声をかけた。
いつもよりも早く休憩を取ることになるが、バンディーは彼女の言う通り休むことにする。
その返事を聞いた団員たちは、休憩のときに飲む水の入った皮袋を取り出し、それぞれ地面に転がったりしながら休み始めている。
バンディーも団員たちに続き、馬から降りて側にあった岩に腰かけた。
そして、他の者と同じく皮袋を取り出し、勢いよく水を飲んで喉を潤す。
ぷはーと快活な声を出していると、バンディーの隣にポムグラが座ってきた。
「けっこう様になってきたんじゃないかい? うちらの団もさ」
「うん。アタイもそう思う。にしてもライズったら、まさか逃げたんじゃ」
「それはないって。たぶん遅れるだろうけど、いつも終わりくらいには現れるからねぇ、あの子」
「なんであいつ、やる気を出さないんだろ……。そりゃ、あいつにとっちゃこの国は故郷でもなんでもないけどさ」
「まあ、こっちは気にせずに続けてるしかない――ッ!?」
会話中に、ポムグラは異変に気がついた。
彼女は立ち上がると、突然声を張り上げる。
「敵襲! 敵襲よ! みんな気をつけて!」
ポムグラが叫んだのとほぼ同時に、矢の雨が平原一帯に降り注いだ。
休憩をしていた団員たちは、わけがわからないまま無数の矢に貫かれていく。
他国からの襲撃か?
いや、まさかゾルゴルドの組織の生き残りによる攻撃なのか?
それ以上に、ジニアスクラフト王国の城を目の前に、いきなり敵が現れるなどおかしい。
兵団が浮足立つ中、バンディーは己の目を疑った。
自分たちを囲んでいたのは、そのジニアスクラフト王国の旗を掲げてた軍勢だったのだ。
「ど、どうして王国軍が……?」
武器も盾も最低限の甲冑すらも身に付けていない団員たちは、無惨にも王国軍の矢で絶命していく。
そこら中を走り回る者。
馬に乗って逃げ惑う者。
だが何もない平原では身を隠すものなく、団員たちは、ただ空から落ちてくる矢を受けるしかなかった。
仲間たちが為す術もなく死んでいく光景を見て、バンディーは立ち尽くしてしまっていた。
こんなことがあるはずがない。
今の自分たちはゾルゴルドの組織から国を救った英雄、ティア直属の兵団となっているはずなのにと。
「バンディー! 今はこの状況をなんとかするのが先決だよ! あんたがしっかりしなきゃワタシら全員、ここで全滅だ!」
「ポムグラさん……。くッ!? 総員、隊列を組め! 楔形陣形だ! 敵の囲みを一点突破で脱出する!」
バンディーは馬に跨り、皆に大声を上げた。
浮足立っていた団員たちは、彼女の声で我に返り、一斉に隊列を組んで動き出す。
盗賊とはいえ、そこは信念があった義賊の集団。
頭さえ動けば、皆が
「もしかしてティアがアタイらを裏切ったの……?」
「そんなことするような子じゃないって、あんたもよく知ってるでしょ」
「そうだよね……。じゃあ、なんで……? ティア、ライズ……あんたら今どこにいるんだよ……」
団員たちを動揺させないように声を押し殺しながら、バンディーは二人の名を呟いた。
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