第44話  砂浜での戦闘……

場所は砂浜、朝であるにもかかわらずジリジリと太陽が照らす。

そこに男女が2人――角と羽を生やし、ピンク髪をツインテに束ね、赤い動物の毛皮と黒い服をまとい腕組みをする女、相対するは両手に長い槍を携え構える男――そう僕だ。


ほんとどうしてこうなってるだっけ?

部屋にこのピンク女が不法侵入してきて、とりあえず逃げてたらここまで来ちゃったわけだけど……逃げてる途中で赤い霧が出たと思ったらしばらくたって消えた。


それにここにくるはずないって守が言ってた魔族が来てるし、いったい何が起こってるっていうんだ。


別荘の人たちも気になるけど、今はこっちに集中だね。

神具グングニルを強く握りなおす。



「ほう?お前できるな?――その身のこなし、戦闘訓練を受けている者の動きだ。素人ではあるまい?」


「さぁね、敵である君に教える理由はない、よッ!!」



神具グングニルをピンク女に向けて突く。

刺突が飛び、ピンク女に迫る。

だが女は微動だにしない。

なんだ?この距離で避けられる自信が――いや、もっと別の理由が……


思考している間にピンク女の毛皮に当たる。

当たった瞬間爆風が起き、砂ぼこりが舞う。


だがあいつはかすり傷1つ負わず、無傷だった。

あの自信はツールズの力ゆえか!



「ははは!無駄無駄!!このツールズは最強なんだからな!!!」


「それはどうかな?」


「――なに?」



確かに攻撃が効かない、一見強そうな能力に見えるが、弱点がある。

ホルダー全員に言えることだけど……



「ツールズを使うってことはMPを消費するってこと――ならMP切れしたならその力を使えないでしょ?」


「確かにそうだな。だが、それはそちらも同じこと!MPが切れたら肉弾戦になるが、人の身のお前が魔族である、あたいに叶うとでも?」



ピンク女はバカにしたように笑う。

だけど僕が負けるなんて万が一もない。

なぜなら……



「勝てるさ、だって……」


「おにい!」



遠くから紬の声が聞こえる。

視線だけ向けると日野さんに引っ張られる守とその後ろから紬と氷上さんが走ってくるのが見えた。

タイミングばっちりだよ。



「友達がいるからね?」


「なぜあいつらがここにいる!?あたいの妹たちを倒してきたとでもいうのか!?――あ、ありえない!!」



守たちが合流する。

日野さんと守ボロボロなんだけど、大丈夫?

逆に紬と氷上さんの2人は無傷だし、いったいどんな戦闘あったんだろう。



「これで形勢は逆転だね、どうする?降参しとく?――今ならあんたが」


「お前ら複数人で1人をボコって恥ずかしいと思わんのか!?武人なら武人らしく戦え!!」



いや、僕たちただの学生だし……

地団太を踏みながら子供みたいなことを言い出すピンク女がぎゃぎゃあと叫ぶ。

不意打ちしといて何を言ってるんだよ?



「許さん!許さんぞぉぉッ!!」



猪のごとく真っ直ぐに突っ込んでくる。

紬が鎖を出現させ、拘束するがそれごと引きちぎりながら段々前へ前へと進んでくる。



「ホラー映画かよ……」


「あぁ……昔の映画で鉄線引きちぎって近づく殺人鬼いたよね?――言われるとそう見えるかも?」


「お前らぁぁぁ!!!」



ピンク女の周りを暴風が漂いだす。

鎖を巻き込みながらどんどんと大きくなっていく。

そして……



「何あれ!?暴風から火柱にかわったよ!?」


「――さすがフィフスだね、ただじゃ終わらないな……」


「守、あのツールズ知ってるの!だったら能力教え――」



守は僕が言い切る前に転移を発動させた。

さきほどの砂浜から離れ、別荘近くに転移する。


砂浜の方は火柱が立ち上り、熱すぎて近づくことも出来ない。



「危機一髪だった……で?あれ何なの?」


「ナンバーシリーズのフィフスの能力だ。能力は無効と炎上――ツールズの能力をMP使って無効化して、その無効化した能力を燃料に炎を形成する力――しかも燃料が尽きるまで燃やし続ける。例え自分のMPを使いきったとしても……」



何それ?強すぎるでしょ?

MPが切れても近づけないんじゃ譲渡も確保もできない。


皆が無理だと思っているなか、守はしょげていなかった。

対抗手段でもあるのだろうか?



「だけど……、氷上さんならなんとかできるだろ?」


「――あぁ!フォースの吸収を使うということか!!珍しく頭がさえてるな!!!」


「いやそう思われてるの知ってるけど言い方あるでしょ!?」



フォース?何か僕のいない間にまた知らないツールズ増えてるね?


そこのところあとでもう少し詳しく問い詰めるからね。

――みんなが火柱に向かって整列する。



「じゃあ!やろうよみんな!!」


「「「「うん(おう)!!」」」」



僕が合図を出してみんなが一斉に火柱に向かう。

氷上さんと日野さんが僕たちに前に出て火柱に突っ込んでいく。

すると目の前の炎が何かに吸われるように消えていった。


これがフォースの能力……

あれ?日野さんも使えるの?


守のやつ……僕には教えないのに、2人には教えたんだ。

昔からの親友としては――ちょっと嫉妬してしまうな。


2人のおかげで火柱が消え、ピンク髪の姿がはっきりと視認出来た。

火柱の中心にいたのにダメージを受けていない。


自分の能力じゃ傷つかないのか、想定内だけどね!



「いくよ!妹ちゃん!!」


「妹ちゃん、いうなッ!!」



守が神具ソハヤをスイングして斬撃が飛ぶ、紬はそれに合わせて神具グレイプニルで拘束する。

ピンク女は不快そうに僕たちを見る。



「小賢しいッ!!」



すぐに拘束していた鎖も引きちぎられも斬撃も無効化される。

再び炎上させようとするが……



「「させない!!」」



日野さんと氷上さんがはじかれた斬撃と引きちぎられた鎖を吸収する。

燃料がなければ炎上も起こらないよね!


僕たちは入れ替わり立ち代わりしながら前へと進み、ようやく手の届く範囲まで来た。

守がピンク女の赤い毛皮を掴む。



「掴んだぞ!!――譲渡だッ!!!」


「お前ぇぇぇ!!!!」



その瞬間、フィフスの権利が守に移る。

――ピンク女は激高し、守に右手の拳を振り下ろす。



「――させないよ?」



僕は溜めておいた神具グングニルでピンク女の拳を貫く。

その瞬間、右手はクルクルと吹っ飛んでいき砂浜に落ちる。



「があ゛ぁぁぁ!!!」



ピンク女は手を落ちた右手があったところを抑えながらそのまま倒れるように気絶した。


起き上がってくる気配はない、つまりこの勝負……



「僕たちの勝ちだ!」


「「「やったぁぁぁ!!!」」」


「ぎゃあ゛ッぁぁぁ!?」



僕たちが喜んだ瞬間、ピンク女は耳をつんざく悲鳴を上げた。


ゆっくり振り向くと残っていた左手が吹っ飛んだ状態になっている。

――その傍らには守が神具ソハヤを持って立っていた。


まさか、あいつが?

――ありえない……

だって人を傷つけるのが嫌いな守が……



「おい、お前の他に仲間は?もしくは転移させた奴の名前でもいい、さっさと吐けよ?」


「だ、誰がい――」


「……そうか」



守は神具ソハヤを片手で振るい片足を吹っ飛ばす。

あっけなく切り落とした、何の躊躇もなく……



「あ゛ぁぁぁぁ!!?」


「まじめに答えないとドンドン体がなくなってくぞ?お前らがこれくらいじゃ死なないのは前回で分かってるからな」



守がもう一度神具ソハヤを掲げる。

慌てて僕は神具ソハヤを持っている手を掴んだ。

これ以上親友の奇行に手を出さずにはいられなかった。


こちらを振り向いた守は表情はいつも通りだった。

だけど目がヤバい……今の守は普通じゃない……


いや、違う……こいつは守じゃない!



「――おい、それくらいにしとけ」


「何で止めるの司?情報ないとこいつら送ってきた犯人が――」



白々しいなこいつ……

掴んだ手の力を強める、普通の人が悶絶するほどの力で、だが守に似た奴は痛がるそぶりも見せない。



「司って呼ぶな、そう呼んでいいのは僕の親友だけだよ。少なくとも――君は守じゃない!僕の親友はそんなことしない!!」



守は表情が突然無表情になり、次の瞬間顔の表情が一変した。

その表情を見た時ゾクリと背筋に寒いものが走る。

守が絶対にしない表情――まるでこの世全てを呪う……



――憎悪の表情だった。




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