第20話 買い物
「兄者、今日は買い物に付き合ってくださりありがとうでござる」
「こっちこそだ妹よ、服選びに付き合ってくれてありがとうな」
6月4日の午前、俺は自分の妹と蓬莱町唯一の商店街に買い物に来ていた。
俺は店で妹に選んでもらった服を何着か購入し、そのうちの一つを着て、着てきたジャージは、リュックの中に買った服と一緒に詰め込んでいる。
外行きようの服がない俺にとって、買い物は願ってもないことだった、おかげでよさげでリーズナブルな服を買うことができた―――相変わらず服選びのセンスがいい、妹に頼んで正解だな…
―――その妹はというとグルグルの度なし丸眼鏡にチェック柄のTシャツを着こみ、一昔前のオタクのコーデに身を包み、手にはアニ・イトで買った、様々なグッズが入った袋を持って、はしゃいでいる。
かなりダサいというかどこからどう見ても旧時代のオタク女子だが、俺は知ってる、これはナンパ防止のコーデであると、家族の俺が言うのもなんだが、妹はかわいい、ひいきめなしで美人なことも普段はおしゃれなことも知っている。
ただオタクグッズを漁る際にナンパや勧誘などが多く、自分の好きなオタク活動に差し障ると妹はあえてダサい恰好をしている―――
………この妹が十年後には海外でも有名なファッションデザイナーになり、夫と子供二人に囲まれた幸せの家庭を築く、独身職業不定の俺と違って順風満帆の生活を送る。
あっちの世界ではの話だがな、この世界でも幸せになってほしいと心から思う。
「それにしても珍しいでござるな?服を購入などと、ジャージと制服以外着ない兄者が―――どういった心境の変化でござるか?」
「さすがに友達と遊ぶのにジャージか制服しかないのはまずいからな―――前話したろ?友達ができたって」
「友達を作らなかった兄者が―――成長しましたな…」
やめろ、悲しくなってくる…こっちの世界だとぼっちだったからな、あっちの世界でも司以外はいなかったけども…あれ?
よく考えたらどっちの世界でも司除けば友達いなかったのでは?
これ以上考えるのはやめておこう。
「それじゃあ俺この後予定が―――」
「――およしなさい!」
―――俺と妹は声の聞いた方に顔を向ける。
路地裏から女性の叫び声、何か事件性を感じるな、妹の方を見るとスマホを片手に震えている。
女性の叫びは聞こえていた通行人もいたが、そのまま通り過ぎる。
助ける人などいない、関わり合いたくないのだろう。
―――だけど…俺は!
「あ、兄者?とりあえず警察に連絡を―――」
「―――結、荷物預かっててくれ、俺行ってくる!しばらくたって戻らなかったら警察でも呼んどいてくれ!」
「ちょ!?兄者!?」
妹の制止も聞かず、俺は路地裏へと走り出す。
考えるな、勘違いだったらそれでいい、だけどそれ以外だと警察を呼んでいる間に助けを求める人の安全が保障できない、俺が行って妹が警察を呼ぶまでの時間を稼がなきゃいけない。
路地裏の奥を見ると男四人が誰かを取り囲んでる姿が目に入る。
男たちが壁になって顔も容姿も全然見えない。
だけど助けが必要な状況だってことは、すぐにわかった。
助ける!
それが俺の昔からの信条だからだ!
「おまえら何してる!」
「あぁ?」
―――男たちが一斉にこちらを振り向く、相変わらず壁になって奥の状況が分からないがそれでも奥の人に声をかける。
「俺が時間を稼ぐからその間に逃げて!」
俺は姿勢を低くし、タックルの要領で男の一人に突っ込む。
男たちは突然のことで動揺した一瞬のスキをついて女の子が脇を通り過ぎた、よかった逃げられて…
―――そう安堵したすぐ後に、体に痛むが走る
「てめ、何様のつもりだ!」
「女の子助けるヒーローにでもなったつもりかよ!」
「お前のせいで逃げられたじゃねえかよ!」
殴られた、蹴られた、踏まれた、押さえつけられる。
男4人に集団でボコられるが、司に殴られたほどの痛みはない…
だが数が多いだけに俺は何もさせてもらえず、地面に倒れこむしかなかった。
地面に倒れこんだ後も暴行は続く、俺が血を吐いても止まらない、ポッケやら何やら調べて金目の物が何もないことを確認すると、舌打ちし、さらに蹴りを入れる。
やばいな、さすがにそろそろ限界かも…
―――そう思った時だった。
「―――君ら、僕の友達になにしてんの?」
そこには司と妹ちゃん、その後ろに隠れるように結がいる。
タイミングよく現れてくれた、やっぱり俺の友人はヒーローだ…
―――昔から変わらず、遅れてでも助けに来てくれる、また助けられちまうな。
「なんだてめえは!そもそもこの男が突っかかってきたのが悪いんだぞ!文句あるか!」
「だからって過剰防衛過ぎでしょ?あっ過剰防衛って言葉分かる?バカには分からないか?」
「なんだと!」
男の一人が歩み寄ろうとしたので、俺は足を引っ張る
「ぐべ!」
―――不意打ちだったこともあって綺麗に決まった、男の一人は転び、顔面を強打する。
1人くらい仕返ししてやらないと俺も殴られ損じゃないか
―――後は頼むぜ、親友…
「お前まだ動けて!?」
「ありがとう守、これで倒しやすくなった―――」
―――他の3人が俺に意識を向けてる間に司は距離を詰めていた。
そこからはあっという間だった、司によって男3人は地べたに倒れることになる。
俺が転ばした1人以外、目に見えるけがはなく無力化される。
―――やっぱり司は強いな…
「お兄ちゃん!」
涙を流した結が俺に駆け寄ってくるので俺は立ち上がり、妹を受け止める―――
―――お兄ちゃんって久々に聞いたな、最近は兄者としか呼ばなかったから新鮮だ。
傷が痛たい…けど平気なふりをする。
「泣くなよ、俺は平気だからさ?それより何で二人と一緒だったんだ?」
「お兄ちゃんの…スマホ…かかって…たすけてって…いって…」
泣いてるせいで何言ってるかわからん…
―――そこに妹ちゃんがゆっくりと近づいてくる。
「妹ちゃん司と一緒にもう来てたんだね、巻き込んでごめ…」
―――バシッと俺の頬に痛みが走る。
妹ちゃんに頬をぶたれたことを後から認識できた―――ひりひりと痛む頬を抑える。
結はそれをみてあわあわしている。
「私たちがあんたに電話したら、あんたの妹がでて、兄を助けてほしいって言ってきたのよ、バカなあんたを助けるためにお兄と一緒にここまできたのよ感謝しなさい!実の妹に心配かけさせてんじゃないわよ!ほんとバカね!」
「―――あぁそうだな…ありがとな、司も妹ちゃんも来てくれて助かった本当にありがとう、結もすまんな心配かけさせて…」
「―――大丈夫…でござる!無事で何よりであります!」
結も泣き止んで、いつも通りの口調に戻ったので少しは落ち着いたようだ…
―――妹ちゃんは結の代わりに怒ってくれたのだろう、ぶたれたことも妹の怒りだと思って甘んじて受け入れよう。
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