第34話 共闘
まさかここで、共通ルートの主人公を助ける時のセリフを2人同時に聞けるとは思わなかった。
――いや、そうじゃなくて!
「なんで、2人がツールズ持ってきてるの?」
「私は昨日の経験から、ツールズは手元に置いとこうと思って――」
「何があるか分からないのに持ち歩かないわけがないだろう?バカなのかい?――そんなことより……」
俺は氷上さんに襟をつかまれる。
いつま無表情な氷上さんが怒っているように見えた。
怒られることしたかな?
「助けての一言も言えないのか君はッ!もう少しで死ぬところだったんだぞッ!!」
「いや、でも……こんな危険に巻き込むわけには……」
パッと氷上さんは俺の襟を離す。
氷上さんの陰から日野さんが顔を出した。
「巻き込んでいいんだよ?もう私たち友達でしょ?――友達なら助け合わなきゃ!」
「友、達……」
そう言ってもらえたのがとても嬉しかった。
出会った間もないのに俺を友達と呼んでくれるのだと……
そして助けてくれることに……
氷上は日野さんを鼻で笑う。
「勘違いしないでほしいが、そっちの単細胞と違って、私はあの男が持っている未知のツールズが欲しいという理由で協力するだけだ。――友人だからという理由では決してない、君が私を友人と呼びたいのなら好きにすればいいさ」
「素直になればいいのに……ツンデレ?」
「黙れ、ゴリラ」
その言葉を皮切りにまた2人喧嘩始めちゃったよ。
全く、仲がいいことで――
「ありがとう、2人とも……」
「――バカな、バカな、バカなぁぁぁ!!!」
俺が2人に感謝している時に、イセルが叫びだす。
イセルを見ると、左手を抑えながら立ち上がる。
抑えているもののそこからは血など出てはいない。
斬られたに血が出ていない――
それがこの世界の生物ではないと証明している、何よりの証拠だろう。
「何あれ!?」
「これは……気味が悪いな……」
「下等な人類ごときにこの私がぁぁぁぁ!」
襲い掛かろうとするイセルだが目の前に見えない壁があり、こちらに近づけないようだ。
氷上さんの神具アイギスの力だろう。
何度も何度も障壁を殴りつけるイセル、少しずつ障壁にひびが入り始めている。
「さて、この障壁も長く持ちそうにない――私に作戦がある、協力する気はあるかい?」
「頼む!」
「そうか、じゃあまず――」
氷上さんから作戦を聞いて、確かにこの作戦が決まればイセルを無力化できる。
さすが頭いいな、俺じゃ絶対思いつかなかった。
俺のMPも回復した、いつでも行ける!
障壁のひびがどんどんと広がっていく。
時間はあまりなさそうだ。
「じゃあ作戦通りに!」
「「了解!!」」
障壁がいよいよ割れ、イセルが突っ込んで来る。
狙いは当然、氷上さんだ。
『サード!』
『ちょっとぉマナ消費多いよぉ!?立ちくらみにぃ注意してぇ!』
日野さんと氷上さんを転移させる。
立ち眩みがするが、まだいける!
目の前から人が消えたことで、イセルの拳は空を切る。
まだまだぁぁ!!
『サード次!!』
『はぁい!』
俺のかぶっている仮面が消え、イセルの目の前をふさぐように転移させる。
「小細工をぉぉぉ!!!」
イセルは仮面を叩き落とすと、もう俺は眼前にまで迫っており、フォースに手を伸ばす。
「進歩がないですねぇぇぇ!!!」
フォースをフラフープのように回し、俺の手が空を切る。
勝った!――とでも思ってるんだろ?
そのニヤケ面、いつまで持つかな?
「君がね!譲渡ッ!!」
イセルの首からフォースが消える。
イセルは後ろを振り向くとそこにはフォースを首から下げている氷上さんがいる。
俺は陽動だよ。
お前が俺に視線をやっているうちに氷上さんが後方からフォースを奪う作戦、俺たちを下に見ていたお前の傲慢が招いた結果だぜ?
「小娘ぇぇぇ!!!」
「おっと!行かせないぞ?」
俺は氷上さんに向かっていくイセルの左手をつかむ。
すぐに振り払われると思うが、それくらいの時間稼ぎくらいならできるんだよ。
「あとは任せたッ!日野さんッ!!」
「よかろう!」
上空にいる、日野さんが返事をする。
前、後ろ、そうくれば次は上からだろう!
イセルは俺の手をようやく振りほどくが、もう遅い!
「食らえ!我が怒りの雷をッ!!」
日野さんは神具ミョルニルを振るい、雷撃が落ちる。
いくらお前でも光の速さは超えられないよな?
「どうだ?死は救済なんだろ?――お前今幸運か?」
「貴様らぁぁぁ!!!」
雷撃がイセルを直撃し、全身を焦がす。
声も発せず、イセルは地面へと倒れる。
もちろん殺してはいない。
神具ミョルニルは命まで奪えない、例えるならスタンガンのような性能をしている。
MPを多く注げば高圧電流となり死ぬだろうが、今回はそうはしなかった。
それではあいつと同じになってしまうからな。
人型相手なら正にうってつけのツールズだ。
「――て速く日野さん転移させなきゃ!」
神具ミュルニルを放つと動けなくなるのなら、このままだと日野さんが地面にたたきつけられる!
『サード』
『はぁい』
転移させれば一時的に落下運動が止まるため、地面に置くように転移させれば問題ないはずだ。
カツカツと不用意に氷上さんが近寄ってくる。
「全く……やれやれだよ」
「あっ、氷上さん!そこあぶな――」
「おわッ!?」
俺が言うのが遅く、氷上さんが向かってくるタイミングで足元に日野さんを転移させてしまった。
氷上さんは日野さんにつまずき、体勢を崩して倒れる。
「日野さん!氷上さん!!大丈――夫……」
呼びかけようと近寄り見たのは、日野さんと氷上さんが唇と唇を重ねているところだった。
倒れた拍子にキスしてしまったのだろう。
なんか、その……ごちそうさまです?
何に感謝しているのだろうか俺……
2人ともパッと顔を赤くする。
「わ、私の……ファースト――キス、が……」
「な、な……なん――鈴木ぃぃぃ!!!!」
「ごめんなさぁぁぁい!!」
俺は顔を般若の顔をした氷上さんと動揺を隠せない日野さんに土下座の姿勢でひたすら謝り続けた。
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