第35話 遊園地の後に……



「ありがとうお姉ちゃん!バイバイ!」


「じゃあね、今度は迷子にならないようにね」



私は手を振り、入場ゲート近くで子供を見送る。

あの子は午前中に迷子センターに送った子、親と一緒にお礼を言いに来てくれた。


昼間からずっと午前中に助けた人たちから感謝を言われ続けている。

外国人カップルも財布を落とした男性からもだ。


私が直接助けたわけではないけど、感謝してもらえるのは嬉しかった。

時刻は夕方になり、皆、入場ゲートを目指す。



「紬が人助けするなんて珍しいね、守みたい」


「なッ!?あんな奴と一緒にしないでよおにい!」


「あらあら、人助けはとってもいいことよ?」



3人でそんな事を談笑しながら、ゲートをくぐった。



「そういえば紬?友達と一緒に来てたって聞いたけど、探さなくてよかったの?」


「――えっと……」



まずい……おにいには、友達とはぐれたことにしてる。

言い訳しようにも、連れてきた友達などいない……

どうしよう……


私が回答に困っている時に声を掛けられる。



「あっ、いたいた!紬ちゃん!!――途中でいなくなるから心配したよ」




振り返ると、詩織ちゃんと翠ちゃんが私服姿でこちらに手を振っている。

2人ともこの遊園地に来ていたみたい。

でもどうして?


私が疑問に思っていると翠ちゃんが小声で耳打ちする。



「事情は知らないが、鈴木に頼まれた、妹ちゃんと一緒に来たことにしてくれと――このまま話を合わせてくれ」


「わ、分かった――」



翠ちゃんはそれだけ言うと日野さんの近くに行き、何やら喧嘩している。

いつも喧嘩してるね――あの2人


それにしても2人に頼んでくれたんだあいつ、しっかりと根回しして――その気遣いをどうして普段できないのかな、あの人……


まぁでも……

――気は進まないけど、今度お礼くらいは言おうかな。


立ち止まっているとおにいが私の頭にポンと手をおく



「どうしたの?帰ろ?」


「うん!」


私たちは帰るために駅へ向かう。


そういえばあいつ今頃何してるんだろう?

家にもう帰ってるのかな?




□□□




――場所は変わって、遊園地内の建物の陰

そこに一点を見つめる男、鈴木守がいまだにそこにいた。

見つめる先には、イセルがそこには横たわっているはずだった。

そう、そのはずだった……


だが、その姿は忽然と消えている。

俺が転移させたわけではない、本当に忽然と消えた。


2人に頼みごとをして、見送ったその数分でイセルはいなくなっていた。

逃げたのかと思い、あちこち探そうと走り出したちょうどその時だった。


オリアナ様から連絡が入った。


負傷した状態のイセルがイデアの牢で見つかったらしい。

イデアが叫んでいて何事かと見に行った衛兵がその姿を発見した。

今は治療中とのことだが、正直あいつに元気になってほしくはない。

だがそれでも死んでほしいとは口にはだせない。


――生きて罪を償え、イセル


あいつのことよりも……



『オリアナ様、どう思いますか?今回の不思議な事件の事』


『そうですね――まず、異世界転移などあなたのツールズ以外には見つかっていません。だからあなたが真っ先に疑われてしまいますが、わざわざせっかく呼び寄せたのに負傷させて送り返すとは到底思えません。なら……』


『他に異世界転移のツールズを使う奴がいる』



少なくとも俺には心当たりがない。

設定資料集でも転移はサードのみ、後はモンスター転送のツールズがあるが一方通行であちらに呼び戻すことなどできない。


俺の知識がいよいよ使い物にならなくなってる。


しかも今回のナンバーシリーズのフォースの件だ。


あれはどこにあるのかも分からない、だがそれを発見した者がいて――しかも自分で使わずイセルに与え、こちらの世界に送り込めるほどナンバーシリーズでは比にならない強力なツールズを持った人物がいるということだ。


可能性として思い浮かぶのは、ナナシ――あいつ以外思いつかない。

時を止める事や転生させることができるあいつになら、こんな芸当朝飯前だろう。


しかも元の世界での事も知ってるならなおさらだ。



「これはいよいよ、今の俺じゃダメかもしれないな……」



ナンバーシリーズ1つだけでも、対処に3人でようやくだった。

なのにこれから、そんな敵を相手にしなくてはならない。


他のナンバーシリーズも、もう見つけているのかもしれない。

だとしたらナンバーシリーズを持たせた、イセルみたいなやつが次々来るかもしれない。


そんな事になったら、今のツールズでは太刀打ちできない。

弱くて頭も回らない俺ではこれからの戦いに足を引っ張る。

――だったらもっと強い力がいる……



「覚悟決めるしかないかもな……」


『何の覚悟ですか?』


『いえいえ、こっちの話です!オリアナ様もお疲れでしょうし、これで通信は終了しますね!』


『あっ、ま――』



無理矢理オリアナ様との通信を切り、あっちの世界にも見えないように認識をずらす。

俺はポケットからサードと転移させた魔具ライオスを両手に持つ。



『なぁ、サード?――俺と一緒に強くなってくれるか?』


『もちぃ!やっとその気になってくれたんだね!!』



強くなる。

俺が今度こそ親友みたいなヒーローに……


いや――お前すら超えるヒーローに俺はなるッ!!

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